Research Abstract |
中央切欠を有するクロムモリブデン鋼の円筒試験片を作製し,ガス浸炭後油焼入を行った.ついで,日本原子力開発機構JRR-3の中性子線を試験片に照射し,浸炭焼入により試験片内部に発生する残留応力分布により鉄の211回折に生ずる回折面間隔を非破壊測定した.また,試験片を切断し,断面の炭素濃度と硬度変化を測定するとともに,差動トランス型変位計を用いて試験片のたわみを計測する手法の検討と,弾塑性有限要素法を用いて円筒試験片の浸炭焼入過程をシミュレーションし,断面の炭素濃度や硬度変化,試験片内部の残留応力変化を解析した. 研究の結果,浸炭焼入した試験片の炭素濃度は,切欠底では実測値と解析値はほぼ一致したが,切欠のない平滑部表面極近傍では解析値が実測値より高くなった.一方,断面硬度は,浸炭表面で実測値と解析値に若干のずれが生ずるが,硬化層深さは両者でよく一致した.また,弾塑性有限要素法により解析した浸炭焼入により試験片内部に発生する残留応力は複雑で,円筒試験片の半径,円周,長手方向が必ずしも主応力軸ではないことがわかった.そこで,半径,円周,長手方向のひずみ分布を計算し,中性子回折から得られた試験片内部の回折面間隔変化と比較した結果,試験片長手方向のひずみ変化と実測値の変化は,良く一致することがわかった.以上,浸炭焼入による炭素濃度と硬度の変化は,弾塑性有限要素法による解析結果とほぼ一致するが,熱処理時の境界条件や炭素濃度に対する機械的性質などの材料定数など再検討する必要があることがわかった.また,浸炭焼入により試験片内部に発生する残留応力は,中性子線により非破壊測定できる可能性が高いことが十分確かめられた.
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