Research Abstract |
近年,高温超伝導体(HTS)は核融合マグネット,エネルギー貯蔵システム,送電ケーブル,磁気遮蔽装置等の様々な工学的応用に用いられている.こうした工学的応用機器の設計には遮蔽電流密度の評価が必要不可欠であるため,遮蔽電流密度の様々な解析法が提唱されてきた.しかし,殆ど全ての提案法は,穴やクラックを含まないHTS試料だけに適用できるものであった.本年度の研究目的は,穴やクラックを含むHTS薄膜中を流れる遮蔽電流密度を解析するための安定かつ高精度な計算手法を開発し,同法を用いてクラックが永久磁石法に及ぼす影響を数値的に調べることである. 上記目的を達成するため,準定常近似と薄板近似の下で遮蔽電流密度の支配方程式と境界条件を再定式化した.しかしながら,クラックや穴の表面上での境界条件は弱形式に完全に組み込まれるため,数値解はクラックや穴の表面上でのFaraday則を厳密には満たさない.それどころか,膜厚が薄くなるほど,Faraday則の数値誤差は顕著になる.この難点を解決するため,クラックや穴の表面上で仮想電圧を印加することによって,:Faraday則を数値的に満足させる手法(仮想電圧法)を著者等は提案した. 仮想電圧法を用いて,多重連結断面をもつHTS薄膜中を流れる遮蔽電流密度を解析するための数値シミュレーション・コードを開発した.同コードを用いて,クラックが永久磁石法の精度に及ぼす影響を数値的に調べた結果,次のような結論を得た. 1)永久磁石から半径の約3倍以内の距離にクラックが入ると,永久磁石法の精度は劣化し始める. 2)クラックの寸法が増加するにつれて,遮蔽電流密度の軸対称性は次第に失われ,ついには,永久磁石法の精度は著しく劣化する.
|