Research Abstract |
単収縮から完全強縮に至る過程の筋の粘弾性の変化を解析するために,総腓骨神経を1~50Hzまで13通りに変化させて前頸骨筋の筋音図を計測した.刺激パルスを入力とし,筋音図を出力するシステムの伝達関数を同定したところ,全ての刺激間隔で6次のモデルで記述することができた.6次の伝達関数を,バネ・マス・ダンパからなる力学系の2次系のモデルに分解し,伝達関数の分母の係数を解析したところ,粘性の指標は刺激頻度ともに増加した.また,弾性の指標は単収縮時に同定された伝達関数の固有周波数に換算して数Hz程を示すものが刺激頻度に対して最も大きく増加した.さらに,同時に計測した足関節背屈トルクを出力とする伝達関数を同定したところ,伝達関数は2次遅れ系であり,その固有周波数は,上述の筋音図の固有周波数に近かった.このことは筋音図を出力とする伝達関数を同定することで,筋の収縮力を直接計測しなくても筋の力学特性を推定することができることを示している.振動子を用いて皮膚に機械刺激を加えたときに皮膚で計測される振動を計測し,その周波数特性から共振周波数を推定したところ,その値は数十Hzであり,筋音図を出力とする伝達関数の固有周波数と同程度であった.このことは,筋音図を出力とする伝達関数の同定では,上述の筋の力学特性に加えて,皮膚や皮下脂肪などの組織の機械特性も同時に推定できることを示すものである.伝達関数を同定する観点からは,筋の力学特性を高精度に推定するためには,筋音図の計測には変位センサが加速度センサより優れており,一方で筋と皮下組織の力学特性を同時に推定するためには加速度センサを用いなければならないことを明らかにした.
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