Research Abstract |
昨年度に引き続き,鉄筋コンクリート造建築物3棟(山陽小野田市太平洋セメント株式会社小野田工場敷地内)を対象として,昨年度の追加調査を行った。 また,文化財(建造物)指定における時代区分のうち「近代」に生産されたRC造に関する解体報告書等を収集し,コンクリートと鉄筋に関わる調査項目に関して調査した。その結果,報告書等に記された工事目的は多岐に亘り,調査項目は工事目的,分割工事の有無,工事主体,工事にかかわる経費などによる差異が示唆されることなどが判り,現在の文化財指定保存などの場合と大差は認められなかった。 さらに,RC造の黎明期に発行され我が国初のRC造に関する本格的かつ総合的な著作とされる日比忠彦著『鐵筋混凝土の理論及其應用』を対象に,コンクリートと鉄筋とに焦点を絞り調査した。併せて日本工業規格(JIS),建築工事標準仕様書・同解説(JASS 5),および鉄筋コンクリート構造計算規準書・同解説に基づいて現在の技術との比較を行った。その結果,当時のコンクリートは現在と比較してポルトランドセメントの成分は大きく 異なり水和水の概念はなかったのではないかと考えられること,C_3Sが少なくC_2Sが多いことから当時のセメントの凝結時間はかなり遅緩であったのではないかと考えられること,粗骨材の寸法が大きいこと,調合表記は所定の材料を簡便かつ効率よく得るための容積表記であり,現在のような所定の強度を得るためのものではないこと,水量が一定ではないために調合表による強度推定は不可能であり,現在より強度規準は低いこと,練混ぜ水には塩化物イオン混入の可能性があること,ならびに鉄筋として錬鉄使用の場合には強度不足の可能性が高いことなどが判った。 さらに,ここで得られた知見に基づいて調査対象RC造建築物の調査結果を検討した結果,当該RC造のコンクリートは当時の技術水準と比較すると高品質であることが示唆された。
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