Research Abstract |
高エネルギー中性子やイオンの照射を受ける核分裂炉材料や核融合炉材料では,内部のナノスケール程度の局所領域に、多くのはじき出し欠陥が高密度に生成する.それらの非平衡格子欠陥は,熱活性化過程により拡散するので,照射の影響は時間とともに徐々に材料全体にひろがっていく.このとき,たとえば原子空孔どうしが集合化するとボイドと言われる空洞が形成され,また,格子間原子どうしが集合化すると転位ループとよばれる格子間原子集合体が作られる.こうしたミクロ構造変化は,材料の寸法安定性や機械特性に大きな影響(劣化)を及ぼすので,照射による材料ミクロ構造変化を予測することは,照射下で使われる材料の寿命評価・健全性の評価に重要である. 平成21年度においては,MDや連続体モデルの解析において成立することが明らかになっている欠陥エネルギー論を用いて,ボイド形成の反応速度式をモンテカルロ法を使って解いた.欠陥反応速度式を通常の数値積分法で解くのとは違い,「モンテカルロ法」を使って解くという方法は極めて独創的であり,こうした工夫により,これまでにない知見を得ることができた.すなわち,従来,反応速度論解析において,仮定せざるを得なかった集合体の核生成プロセス(エンブリオの挙動)をうまくモデル化することに成功した.その結果,核生成の照射損傷速度依存性を明らかになった.これまで,ボイド成長速度に対する損傷速度依存性は明らかになってはいたが,ボイド核発生率の損傷速度依存性が得られたのは今回が初めてである.こうした知見は,既存の照射材料データを用いて,未知の核融合炉環境下の照射下材料挙動を予測するのに有用な知見である.
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