Research Abstract |
日本産褐藻カヤモノリ種複合体(Scytosiphon lomentaria complex)には,核リボソーム遺伝子のITS2領域とミトコンドリアゲノムのcox3遺伝子の系統解析から3つのグループ(I,II,III)が認識され,また,交雑実験によりそれらが交配群であることがこれまでの研究で示唆されている。本研究課題では,さらに交雑実験を進めるとともに,生殖隔離機構の位置,フィールドでの雑種個体の有無について調べることが目的である。 交雑実験では,メス14株,オス12株について行った。グループIとIIの交雑では,オス配偶子が前鞭毛によってメス配偶子に付着することはなく,雌雄配偶子の融合も起こらなかった。グループIとIIIの交雑も同様の結果であった。これらの結果から,グループIとII,および,グループIとIIIでの生殖隔離機構は,オス配偶子が前鞭毛によりメス配偶子に付着する段階にあると考えられた。グループIIとIIIの交雑においては,IIメスxIIIオスではオス配偶子が前鞭毛によってメス配偶子に付着することはなく,雌雄配偶子の融合も起こらなかった。しかし,IIIメスxIIオスでは雌雄配偶子の融合が起こった。この雑種接合子を24時間後にDAPIで染色し観察したところ,配偶子核より大きな核が1個見られ,それは雌雄配偶子核が融合したものであると考えられた。雑種接合子を単離し培養したところ,雑種でない接合子と同様に成長した。 グループIIとIIIの雑種がフィールドで存在する可能性があるため,グループIIとIIIが同所的に生育する場所において50個体を採集し,ITS2とcox3のハプロタイプの解析により,雑種個体の有無を調査した。約半数のサンプルについて解析が進み,これまでのところサンプルはすべてIIまたはIIIのハプロタイプを示し,雑種個体は確認されていない。
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