Research Abstract |
日本産褐藻カヤモノリ種複合体(Scytosiphon lomentaria complex)には,核リボソーム遺伝子のITS2領域とミトコンドリアゲノムのcox3遺伝子の系統解析から3つのグループ(I,II,III)が認識され,また,交雑実験によりそれらが交配群であることがこれまでの研究で示唆されている。本研究課題では,さらに交雑実験を進めるとともに,生殖隔離機構の位置,野外での雑種個体の有無について調べることが目的である。 交雑実験では,培養株を増やし,メス17株,オス16株について行った。前年度の研究で,グループIとII,および,グループIとIIIでの生殖隔離機構は,オス配偶子が前鞭毛によりメス配偶子に付着する段階にあると示されたが,グループIIとIIIの掛け合わせにおいては,非対称な交雑が観察されていた。今年度は,非対称な交雑により形成された雑種接合子(IIIメスxIIオス)の培養を行った。その結果,雑種接合子は正常に成長し,次の世代の配偶体から放出された配偶子は接合した。また,これらの配偶体のcox3とITS2の配列から,接合子は遺伝的にも雑種であることが確認された。これらの結果は,グループIIとIIIの間では十分な生殖隔離が実験室では認められなかったことを意味する。 グループIIとIIIの雑種が自然下で存在する可能性があるため,グループIIとIIIが同所的に生育する場所から採集した120個体について,ITS2とcox3のハプロタイプを解析し,雑種個体の有無を調査した。その結果,グループ間の交雑に由来すると考えられる個体は見つからず,その場所では,グループIIとIIIは独立して存在していることが示された。 以上のように,グループIIとIIIについては,実験室では非対称な交雑が起こるが,野外では何らかの隔離障壁によって独立して存在していることが示唆された。
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