Research Abstract |
日本産褐藻カヤモノリ種複合体(Scytosiphon lomentaria complex)には,核リボソーム遺伝子のITS2領域とミトコンドリアゲノムのcox3遺伝子の系統解析から3つのグループ(I,II,III)が認識され,また,交雑実験によりそれらが交配群であることがこれまでの研究で示唆されている。本研究課題では,さらに交雑実験を進めるとともに,生殖隔離機構の位置,野外での雑種個体の有無について調べることが目的である。 交雑実験では,グループIとII,および,グループIとIIIでは交雑せず,グループIIとIIIの掛け合わせにおいては,非対称な交雑が観察されていた。また,非対称な交雑により形成された雑種接合子(IIIメスxIIオス)は正常に成長し,次の世代の配偶体から放出された配偶子は接合することが示されていた。今年度は,グループIIとIIIの異なる組みあわせの雑種接合子の培養観察を行ったところ,減数胞子の発芽・発達に異常が見られ,次世代の配偶体が正常に育たなかった。次世代の配偶体が正常に育たない場合の交雑実験に用いた培養株は,産地が近いものであり,次世代が正常に育つ場合は,産地が遠い培養株同士の交雑であった。これはウォレス効果が働いた結果かも知れないが,さらに多くの組みあわせで交雑実験を行う必要がある。 これまでは,ITS2とcox3による系統解析であったが,より高い解像度を得るため,今年度は,セントリン遺伝子のイントロン領域およびミトコンドリアゲノムのcox1のDNA塩基配列を調べ系統解析を行った。その結果は,各グループの関係をより明確に示した。無性生殖株については,有性生殖株と同じ塩基配列を示すものがあり,今回用いた分子種では無性生殖株を有性生殖株から区別することはできなかった。このことは,無性生殖個体群の分化が起こったのは最近であることを示している。
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