Research Abstract |
本研究ではクモバチ科の原始社会性の進化的起源を明らかにする.特に,これまで見過ごされてきたオスの交尾行動が巣内の血縁構造に与える影響について,行動観察,形態解析,遺伝解析を総合した多角的研究を行う.本研究の成果はハチ目の社会性進化の解明に新たな視点をもたらすと期待される. 1. 繁殖行動の解明:原始社会性の進化に血縁関係が関与しているのであれば,特定オスが繁殖に関与しているはずである.この予測をもとに,オスの行動観察を行った.まず,原始社会性キマダラズァカクモバチのオスをマーキングし,その行動を観察,記録した.その結果,各オスは長時間,巣の入口付近で静止し.巣に出入りするメスに対して接近するが,交尾行動はまれであるがわかった.この行動はクモバチ科では特異であり,原始社会性と密接に関連すると考えられた.また,特定オスによる交尾の独占も推測された. 2. 個体間の血縁度の調査:DNA抽出からシーケンサーによる遺伝子型決定までの実験環境を構築することができた.この実験系を用いて,数個体のサンプルからDNAを抽出し,遺伝子型決定の予備実験を進めつつある.また,日本進化学会と日本生態学会に参加し,社会性昆虫の遺伝解析に関する最新情報を集めた結,Wang & Santure (2009)による血縁解析法がきわめて有効であることがわかった. 3. 交尾に関与する雄形質の精査:特定オスによる交尾の独占が生じているのであれば,それを可能にする形質がオスに進化している可能性がある.この予測を検証するため,原始社会性ルリクモバチMacromeris violaceaの雌雄の形態形質(頭幅,前翅縁室の長さ,各肢腿節の厚さなど)を測定した(ロンドン自然史博物館).その結果,本種のオスで,頭幅または前翅縁室長と腿節の厚さとの間に正のアロメトリーが認められた.今後は,この事実とオスの交尾行動との関連を追求する.
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