Research Abstract |
本研究の目的はクモバチ科の原始社会性の進化的起源を明らかにすることである.特に,オスの交尾行動が巣内の血縁構造に与える影響について,行動観察と形態・遺伝解析を総合した多角的研究を行う. 1.繁殖行動の解明:原始社会性の進化に血縁関係が関与しているのであれば,特定オスが繁殖に大きく関与する可能性がある.この予測をもとに,オスの行動観察を行った.まず,原始社会性キマダラズアカクモバチのオスをマーキングし,その行動を観察,記録した.その結果,オスは長時間巣の入口付近で静止し.巣に出入りするメスに交尾を試みることがわかった.この待機行動はクモバチ科では特異であり,原始社会性と密接に関連すると考えられた.また,特定オスによる交尾の独占も推測された. 2.個体間の血縁度の調査:巣に出入りするメスおよび巣口付近で待機するオスを採取し,同一巣場所の個体間の血縁度と雄の繁殖成功を評価するため,分子マーカーを用いた家系解析を行った.3世代計16個体(7♀,9♂)を採集し,AFLP法によって遺伝子型(約300遺伝子座)を決定し,ソフトウェアColony2.0を用いた親子解析と,MERによる血縁度の推定を進めた.その結果,巣場所1で営巣していた3メス中2メスが,また巣場所2で営巣していた3メス中2メスが父親を共有していることが推定され,オス個体のある程度の交尾の独占が示唆された. 3.交尾に関与する雄形質の精査:特定オスによる交尾の独占が生じているのであれば,それを可能にする形質がオスに進化している可能性がある.この予測を検証するため,原始社会性の1種,ルリクモバチの雌雄のいくつかの形態形質を測定した(於ロンドン自然史博物館).その結果,本種のオスのみで,頭幅または前翅縁室長と腿節の厚さとの間に正のアロメトリーが認められた.
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