Research Abstract |
鯨類寄生線虫Anisakis simplexには遺伝的差異に基づく同胞種が知られており,A.simplex sensu icto,A.pegreffii,Anisakis Cなどと呼ばれている.一方,日本近海に分布する2同胞種A. s.s.,A.pegreffiiについては,魚類から採集した幼虫を培養液中で成熟させて得られた雄成虫 同胞種間で形態が異なるという研究結果が示されている.本研究では,それら形態的差異に基づく 定が,終宿主である鯨類体内から得られた雄成虫においても可能であるかどうかを検討するために に,オホーツク海および西部北太平洋産のミンククジラ,南極海産のクロミンククジラから得られ 用いて,形態,特に肛門後乳頭の配列に基づく同胞種の同定と,遺伝子解析(ITS-1領域とミトコ Iの塩基配列)に基づく同胞種の同定を行ってきた.その結果,ミンククジラ及びクロミンククジ 本は,形態的にはほとんどがA.pegreffii型であり,これに次いでA.pegreffiiとA.simplex 徴をそれぞれ左右に発現したものがみられ,A.simplex s.s.型を示すものはわずかで しかし遺伝子解析の結果は,北半球ではA.simplex s.s.が圧倒的に多く,南極海で であることを示し,宿主体内から得られた虫体においては,形態的な差異を以て同胞種 あることが示された. とは異なる形態発現が見られたことについて,終宿主の体内という生息環境が培養とい てより複雑で肥沃なためであったり,虫体の成長段階によって形質の状態が変化するこ 体ごとに何らかの遺伝的背景があって,それに従って3パターンの形態発現をしている そこで23年度には,その遺伝的背景をより鋭敏に検出することを目的としてミトコンド ード領域の配列を解析したが,得られた系統樹はこれまでCOIで得られたものと大きく に今回観察の対象とした肛門後乳頭の配列のような形態形質は,生息環境や成長段階 が示唆された.
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