2009 Fiscal Year Annual Research Report
マツ葉ふるい病菌の生葉及び落葉における生息密度―樹木病原菌の個体群解析
Project/Area Number |
21580185
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Research Institution | Kagoshima University |
Principal Investigator |
畑 邦彦 Kagoshima University, 農学部, 准教授 (00325771)
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Keywords | マツ葉ふるい病菌 / 体細胞不和合性 / 帯線 / 対峙培養 / 分離 / リターバッグ / 樹病 / 真菌 |
Research Abstract |
本研究は、マツ類の主要病原菌の一つであるマツ葉ふるい病菌の生活史における寄生相と腐生相の量的な関係を明らかにし、それを通じて真菌類の生態学に個体群生態学の視点・方法論を導入することを目指すものである。そのためには、本菌の生葉および落葉における生息密度の推定を行う必要がある。本年度はまずその密度推定に関わる方法論の確立を目指した。本菌の個体数を推定する際に利用しうると思われる性質として、体細胞不和合性と帯線がある。前者は対峙培養時に遺伝子型の異なるコロニーが菌糸融合を起こさないという性質、後者は本菌がしばしば落葉や培地上で形成する黒い線で、コロニーの境界線に形成されるとされてきた。そこで、まずは同一菌株および異なる菌株間で対峙培養を行い、体細胞不和合性の有無および帯線形成の条件を確認した。その結果、本菌は体細胞不和合性を有しており、異なる菌株間ではコロニー融合が生じないこと、一方帯線の形成条件は異なる菌株の対峙ではなく、帯線はコロニーの成長停止時に場合によって形成されることが明うかとなった。すなわち、帯線は個体数推定に用いるには確度が低く、一方で体細胞不和合性は有力な推定法であると考えられた。分離時に本菌は境界の明瞭なコロニーを形成するが、上記のことから、これを個体の境界とみなし、分離時のコロニー数から個体数を推定することが可能と思われる。野外で採取した生葉および落葉からの分離試験の結果、落葉からの分離コロニー数と帯線数は必ずしも一致せず、帯線数はやはり個体数推定には余り良い指標でないと考えられた。一方、生葉からの分離コロニー数は従来変動パターンの指標として用いられてきた分離率と類似した変動を示し、個体数推定の有効な基準である可能性が支持された。なお、リターバッグを用いた予備調査から本菌は落葉層で水平伝染を行っている可能性が示唆されたが、これは注目すべき知見と思われる。
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