Research Abstract |
【目的】アオリイカ,Sepioteuthis lessonianaの種苗生産での問題点としては,生きた餌以外では,摂餌率が低いことが挙げられる.そこで本研究では,飼料中の塩分と摂餌率との関係について明らかにした. 【方法】実験には,静岡県静岡市清水区三保地先で採集した卵から孵化した個体を用いた.飼料中の塩分と摂餌率との関係を成長段階別に調べるために,7~112日齢の個体を7日齢ごとに抽出し実験に用いた.海水主要塩類9種それぞれ別々の3.4%溶液と飼育海水(S=34PSU),蒸留水それぞれに15分間浸漬したシラスを給餌し,摂餌行動を観察した.忌避が見られた飼料については,蒸留水で洗浄した後にも同様の観察をした.また,各条件の飼料を蒸留水中でホモジナイズして溶出した塩分を測定した.さらに,成長段階ごとに吸盤にある化学受容細胞の分布状態を調べるために,常法に従いパラフィン切片作製後,Azan,Nissl染色を施し顕微鏡にて観察した. 【結果と考察】飼料中の塩類に対して忌避行動が見られたのは,飼育海水,NaCI,MgCl_2,KCI,CaCl_2であった.これらの忌避率は,日齢が進むにしたがって全てで増加傾向を示し,最も高くなったのがNaClで87.3%,最も低かったのがCaCl_2で17.3%まで増加したが,70日齢以降では,全ての塩類で忌避率が低下した.また,忌避された上記5種の餌から溶出した塩分は0.11~0.14%であり,忌避されなかった餌から溶出した塩分は,0.10%未満であった.一方,忌避された5種の餌を蒸留水で洗浄した場合,全ての忌避率が0~8.2%まで低下した。この時の餌から溶出した塩分は,0.08~0.10%であり,シラスの表面塩分を除去したことで飼料中の塩分が低下し,摂餌率が増加したと考えられた.吸盤の組織切片の観察から,7日齢以降の全ての腕の吸盤基底部で神経細胞が確認されたが,0日齢では確認できなかった.また,成長に伴い吸盤基底部の神経細胞が大きくなる傾向が見られた.以上のことから,本種は海水主要塩類のうちNaClに対する感受性が高く,吸盤の化学受容細胞で餌表面に浸透したNaClを感知する.また,化学受容細胞の発達に伴い忌避率が高くなるが,成長に伴う慣れによって摂餌率が高くなることが明らかになった.
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