2011 Fiscal Year Annual Research Report
分子生態学によるアワビ近縁種の分化メカニズムの解明
Project/Area Number |
21580240
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Research Institution | Fisheries Research Agency |
Principal Investigator |
原 素之 水産総合研究センター, 主幹研究員 (30372048)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
池田 実 東北大学, 農学部, 准教授 (70232204)
木島 明博 東北大学, 農学部, 教授 (50161451)
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Keywords | 遺伝・育種 / 保全遺伝学 / アワビ / マイクロサテライトDNA / ミトコンドリアDNA / 集団分化 / 類縁関係 / 種苗放流基準 |
Research Abstract |
本課題では、寒冷域に分布するエゾアワビと暖流域クロアワビの2種の遺伝的関係について集団および個体レベルでの詳細な解析によって、それらの遺伝学的類縁関係と集団分化の様相を解明した上で、保全遺伝学的観点に基づく放流管理基準の提案を目的としている。3年計画の1~2年目は、分化時間の推定などに有効なミトコンドリア(mt)DNAにおける新規遺伝マーカーの開発、両種の分化メカニズム解明の鍵となる境界域での集団構造の解析、及び近縁種であるマダカアワビを含めた類縁関係を調べた。その結果、マイクロサテライトDNAを用いた3種間の関係では、殆どの個体で形態分類と一致したが、mtDNAでは3種間の分岐は認められず個体間関係が入れ子状態であった。3年目は、この矛盾とエゾアワビとクロアワビ2種の遺伝的関係をより詳細に解析するためメガイを加えて分析を行った。メガイの分布域をほぼカバーする5標本集団の遺伝特性は、ハプロタイプ多様度(h)が全て1.000であったが、塩基多様度(π×100)が0.296~0.526で、エゾアワビ・クロアワビやマダカに比べて低い値を示した。標本集団間の遺伝的分化についてAMOVA分析により検討したところ、FST=0.0116(p<0.05)を示し、徳島と他の標本集団間の分化が顕著であった。ハプロタイプ系統樹を作成した結果、エゾアワビ・クロアワビが起源となりマダカが分岐し、さらにメガイが明確に異なったクレードを形成した。一方、マダカの特異なクレードはメガイのクレードに属し、根に近いところから派生していた。以上の結果から、マダカは、エゾアワビ・クロアワビとメガイ間の過去の交雑によって生じたことが示唆された。また、マーカーによる近縁種間の関係の矛盾は、地域集団間の関係もみられ、マーカーによる進化(置換)速度や環境適応性との違いと考えられ、両種の分化が単純な一方向でなされたのではなく、様々な歴史的なイベントに起因していることを示す意義深い事実と考えられた。
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Research Products
(2 results)