2010 Fiscal Year Annual Research Report
エタノール需要拡大が米国トウモロコシ農業の構造と地域経済に与える影響の研究
Project/Area Number |
21580273
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
磯田 宏 九州大学, 大学院・農学研究院, 准教授 (00193392)
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Keywords | 農業経済学 / 米国農業 / コーンベルト / バイオエタノール / 農業構造 |
Research Abstract |
本研究の目的は米国を対象として,第一にトウモロコシ需要の急増と価格上昇が主産地農業の経営と構造に与える影響,第二に種々の企業所有形態をとるエタノール工場が原料供給農業者および農村地域経済に与える影響を,明らかにすることにある。本年度のイリノイ州調査結果から以下のような点が明らかになった。1.トウモロコシ生産量第1位のアイオワ州と第2位イリノイ州との差はさほど大きくないが(9割),コーンエタノールの工場数,製造量ともにイリノイ州が大幅に下回っている(製造量ベースで4割)。この要因としては,第一にイリノイ州はトウモロコシ国際市場へのアクセスで有利性を持ってきたことから,現在も輸出志向が強いこと,第二にトウモロコシ付加価値事業を起こす経済的インセンティブがアイオワ州よりは弱かったこと,第三に州政府による支援施策もアイオワ州ほどには整備されていないこと(その一要因として州政府の財政危機),第四に農業者・農村住民の間で協同的に出資して起業する社会文化的背景がやや希薄であること等が作用している。2.現在州内で13工場が操業しているが,全体として創設時期が遅かったため,工場規模が大きいものが多い。大規模な工場を創設するためには農業者,農村住民の出資だけでは自己資本額が不足するため,域外の投資企業やエネルギー関連企業からの投資も受け入れる所有構造を取るものが多い。そのことは経済波及効果を域外に漏出させる要因ともなる。3.コーンエタノール企業は,2007-08年の世界農産物価格暴騰以降原油(したがってまたガソリン,天然ガス,燃料用エタノール)とトウモロコシの価格連動が著しく強まったことから,エタノール価格が上昇しても(主要コストをなすトウモロコシと天然ガスの価格も上昇しているので)必ずしも収益性が高まらなくなった。したがって各企業の生産性や原料調達・製品販売上の優位性の有無が収益性に大きく影響を与えるようになっている。4.トウモロコシ生産農業者についても,トウモロコシ販売価格の上昇局面では多くの農業資材価格も高騰し,また彼らがコーンエタノール企業に出資している場合も必ずしも高配当を受けられないようになり,その農場収益性が全般的に好転するとは限らなくなっている。
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