Research Abstract |
生物多様性を維持した保全耕うんによる栽培体系は,地球温暖化抑制に有用な炭素隔離機能を有することが注目されつつある.保全耕うん圃場の土壌炭素量の増加は,物理的に安定した微小団粒を発達させることに起因し(Denef 2004),また,圃場の生物多様性を維持することが土壌有機物の構造を複雑化させ,有機物分解を遅延させると(Sleutel 2007)言われる.本研究では,保全耕うんの1手法として著者らが提案してきた局所耕うん栽培(生物多様性を維持した雑草による被覆栽培体系)圃場における有機物の構造に着目し,炭素隔離機能と生物多様性の関係性を解明することを目的として,初年度は,「耕うん・栽培体系の違いが有機物の分子・構造形態にどのような変化をもたらすのか.」について調べた.また,有機物構造の変化を追跡するための手法として,FTIRの導入を試みたが,分解過程と分析結果との関係を明らかにするために,著者らが1997年に設置した落ち葉処理槽(循環槽)中の有機物(落ち葉)の経計年変化を指標として用いた. 2007年から栽培を繰り返し行ってきた,ロータリ耕うん栽培区と局所耕うん栽培区の表層土を採取し,通気性、団粒分析,pH,EC,水溶性金属濃度を測定した.圃場表層5cmにおける1cmごとの団粒分析の結果では粒度分布に大きな差は見られなが,局所耕うん区では表層で粒径が大きかったのに対し,ロータリ耕うん区では下層部で粒径が大きい傾向があった.pHについては,局所耕うん区において,ロータリ耕うん区より高い傾向が,ECについては,局所耕うん区で,表面に対し下層が低い傾向になった.局所耕うん区における水溶性金属の濃度は,下層にいくにしたがって顕著に減少する傾向が見られた.要因としては,施肥体系や有機物含量および質的(腐植の分子構造)な違いが関係していると考えられる.また,FTIRの測定結果では,KBr錠剤の成形時に発生するばらつきのためにサンプル間の定量的な比較は予想通り困難であった.しかし,目視のスペクトル形状は深さによる差はなく,注目すべき官能基の透過率の値との比を計算することによって,深さごとの有機物の分解特性を特徴つけることが可能であった.循環層の深さごとのサンプルからは分解が進むにつれて,アロマティック/アミド,アロマティック/アリファテイックの比が増加したことが明確に示されており,今後,植物体由来の有機物の分解,腐植化の進行をFTIRの測定により追跡できることが示唆された.
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