Research Abstract |
従来の均一系不斉水素化分子触媒の開発はロジウム,ルテニウム,イリジウムを中心としたものであった。しかしながらこれらの元素は地球上での埋蔵量も乏しく,非常に高価であることから,これらに代わる新たな有機金属触媒の開発が求められている。本研究では,安価で資源としても豊富なニッケルやその他の金属からなる水素化反応を促進する新たな分子触媒の創生を目的に研究を行った。研究開始初年度には,酢酸ニッケルとフェロセン系リン配位子を組み合わせることにより,触媒的な不斉水素化反応が進行することを見出した。とりわけ2-アミノ-3-ケトエステルの系においては,高いエナンチオ選択性で動的速度論分割を伴う触媒的不斉水素化反応が進行した。反応某質に関しては,3位の置換基が芳香環をもつものに対して有効であり,芳香環上の電子密度によらず,高い光学純度でアミノ基と水酸基がアンチ配置をもつ生成物を得ることが可能であった。一方,3位置換基がアルキル基の場合には,収率が悪く,本反応系には適さないことも判明した。次年度では,この問題を解決するために.配位子の最滴化を進めるとともに,ニッケル以外の元素についても,検討を進めていくことを計画じている。また現在のところ反応基質については,2-アミノ-3-ケトエステルに限定されているが,その他の基質についても検討を進めていく。最近,有機ホウ素化合物が,分子状水素を不均一に開裂させ固定化することが報告されている。現在までに不斉反応への積極的な利用はされていないが,これらの知見は,我々の研究に応用することが可能であり,キラルな有機ホウ素分子触媒の開発にも取り組むことを予定している。
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