Research Abstract |
「研究目的」エズリンは原形質膜下のアクチン細胞骨格と膜タンパク質(接着タンパク質・膜輸送タンパク質など)とを連結するタンパク質である。エズリンは,特に消化管(胃・腸)や腎尿細管などの上皮細胞に高発現し,膜融合や,膜輸送タンパク質の細胞表面への動員,各細胞に特徴的な形態変化などに関わることが知られている。今年度は,エズリンの発現を阻害した遺伝子改変マウス(ノックダウンマウス)を用いて,エズリンの個体レベルでの生理機能の探索を行った。とりわけ,エズリンが高発現する消化管や腎臓の組織構築,物質輸送などに対する影響を中心に評価を進めた。 「研究実施計画」 (1) 消化管(胃・腸管)の組織構築の解析:エズリンノックダウンマウスでは,胃酸分泌障害,胃粘膜表層細胞の過形成,胃腺の萎縮,胃壁細胞や主細胞の減少,擬幽門腺化生などの著しい組織構築異常がおこることを発見した。これらの異常は,生後2週間までの胃粘膜の分化,発達時期と対応して見られた。また,腸管においてはNHE3トランスポーターの細胞膜表面への動員が妨げられて,腸管からのナトリウム吸収,それにともなう水吸収が障害を受けることを発見した。 (2) 腎機能の解析:エズリンはさまざまなトランスポーターと会合して,トランスポーターの細胞膜表面への動員や機能制御に関わることが知られている。エズリンノックダウンマウスでは,腎尿細管においてリン酸の再吸収を行うNaPi-IIaトランスポーターの細胞膜表面への動員が妨げられて,リン酸の再吸収が阻害されて尿中へとリン酸が漏出すること。これと対応して,血漿中のリン酸濃度の低下がおこること。活性型ビタミンDの濃度が上昇して,骨からのリン酸やカルシウムの動員が促されて骨密度が低下することを見出した。これらの特徴は,ヒトの「くる病」で見られる症状とよく対応した。
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