Research Abstract |
東アジアでも特に大きな人口を抱えて産業・経済が急速に発展している中国では,特に石炭,石油などの化石燃料の大量消費で発生する燃焼排ガス及び粉じんによる大気汚染が大きな社会問題になっている。しかも,これらの汚染物質は黄砂と共に,我が国まで長距離輸送されている。今年度では,特に排ガス粉じんに含まれ,発がん性/変異原性並びに内分泌かく乱性などを有する多環芳香族炭化水素(PAH),ニトロ多環芳香族炭化水素(NPAH)を対象に,それらの汚染実態(濃度,組成,主要発生源)を明らかにすることを目的として,偏西風の風上,風下の位置関係にある中国の瀋陽,金沢大学輪島大気観測ステーション(旧国設酸性雨測定局,能登半島輪島)及び金沢で大気粒子状物質を捕集して分析した。その結果,瀋陽,金沢及び輪島の大気中PAH,NPAH濃度は,季節によらず,依然として瀋陽で最も高く,バックグラウンド地域である輪島で最も低いことが明らかとなった。また,以前の調査結果と比較して,瀋陽,金沢の大気中PAH,NPAH濃度とも減少したことが明らかとなった。この理由として,それぞれの国で行われた様々な環境対策,すなわち中国政府による燃焼効率の低い暖房用石炭ボイラーの撤去,大気汚染物質を大量に排出する工場の郊外移転や,排ガス規制による基準を満たすディーゼル自動車やガソリン自動車の普及が有効であったことが示唆された。輪島大気観測ステーションにおけるNPAH濃度は,PAH濃度と同様の季節変動をしており,両者の推移に正の相関(相関係数r=0.9139)が認められ,NPAH濃度が上昇する時期と中国北部の都市で石炭暖房が使用されている時期が一致していた。このことから,初冬から春先にかけて,輪島の大気中NPAH濃度上昇の一因はPAHと同様に,中国北部の都市からの長距離輸送であると推測された。
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