2009 Fiscal Year Annual Research Report
糖尿病による発がん促進現象の原因分析:インスリン欠損マウスを用いた実験的研究
Project/Area Number |
21590439
|
Research Institution | Kochi University |
Principal Investigator |
李 康弘 Kochi University, 教育研究部・医療学系, 教授 (10261405)
|
Keywords | 肝がん / 糖尿病 / インスリン / マウス / 化学発がん |
Research Abstract |
ヒトの2型糖尿病が肝細胞癌発生の危険因子であることが疫学調査によって繰り返し報告されている。肝発癌促進を説明する仮説として、糖尿病患者のインスリン抵抗性に伴う代償性高インスリン血症が腫瘍細胞の増殖を助長することが想定されている。本年度は、この仮説の妥当性を検証するため、遺伝的インスリン欠損マウスを利用した化学肝発癌実験を進めた。 AkitaマウスはInslin 2遺伝子(Ins 2)の変異アレルと正常アレルから成るヘテロ接合体である。変異アレルはインスリン分泌を優性阻害する。よって、Akitaマウスは常染色体優性遺伝様式にてインスリン分泌欠損と糖尿病を生じる。このAkitaマウスと肝発癌に高い感受性を示すC3H/HeJマウスを交配してF_1を得た。F_1の約半数はインスリン欠損を示し、残りは正常である。全ての雄F_1に肝発癌物質としてdiethylnitrosamineを1回投与し、肝腫瘍を発生させた。 肝腫瘍の数と大きさを定量したところ、インスリン欠損群と正常群の間で個体あたり発生腫瘍数に有意差はなかったものの、平均腫瘍体積、個体あたり合計腫瘍体積はともにインスリン欠損群で2倍以上大きいという結果となった。これは高インスリン血症が肝発癌を促進するという仮説に反するものである。さらに、腫瘍の細胞増殖とアポトーシスを定量したところ、細胞増殖に差はなかったが、アポトーシス頻度は正常群の方が5倍高いという結果が得られた。よって、インスリン欠損マウスでは肝腫瘍のアポトーシス抑制のため、腫瘍増大が促進されているものと考えられた。今後は、これらの基礎データをもとにインスリン欠損マウスにおける肝発癌促進のメカニズムをさらに追究していきたい。
|