2011 Fiscal Year Annual Research Report
ヒストン修飾蛋白のクロナチンリモデリングによるがんの発生及び進展機構の解明
Project/Area Number |
21590453
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Research Institution | 独立行政法人国立がん研究センター |
Principal Investigator |
藤井 誠志 独立行政法人国立がん研究センター, 臨床開発センター, 室長 (30314743)
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Keywords | がん / ヒストン / クロマチン |
Research Abstract |
個々の遺伝子異常のみでは、正常細胞からがん細胞への劇的な表現型の変化を説明し得るには不十分であり、多数の遺伝子の発現がまとめて変化する機構が形質転換に必要と考える。クロマチンのリモデリングを引き起こすピストン修飾蛋白が、クロマチン構造を変化させることにより、表現型に関わる遺伝子の発現を変化させる機構をがんの発生及び進展に着目して解明することが本研究の大きな目的である。 本年度は応募者が見出したメカニズムが発がんモデルで確認されることで、応募者が提唱する機構の解明ががん治療のアプローチになると考えて研究を行った。これまでの二年間の検討結果から、ピストン修飾蛋白EZH2の高発現は活性化したMEK-ERK-Elk-1の経路によって誘導されることを見出している。従って適切なモデルとしてRAS変異体を導入するとMAPkinaseが活性化した結果、膵癌が発生するトランスジェニックラットモデルを用いて今回の検討を行った。 このモデルで発生したラット膵癌組織を用いて免疫組織化学的染色にて検討した結果、非腫瘍性細胞ではEZH2の発現レベルは極めて低く、前癌病変である異形成から浸潤癌では段階的に形態像の変化とともにEZH2蛋白の発現上昇が認められた。このモデルで生じたラット膵癌細胞株を用いた検討では、MEKインヒビター、Elk-1のノックダウンにてEzh2mRNA、Ezh2蛋白の発現低下が認められた。クロマチン免疫沈降法ではEzh2のプロモーターにElk-1が結合すること、Runx3遺伝子のプロモーターにEZH2が結合することを確認した。ヒトの膵癌細胞株を用いた検討でも、上記と同様の結果が得られ、Elk-1とEZH2のノックダウンではともに膵癌細胞の増殖能が低下した。以上より、変異体RASにより活性化されたMEK-ERK-Elk-1経路がEZH2の高発現を誘導する機構が、膵癌発生に重要な役割を果たしていることを示した。 今後はこのモデルを用いて、環境要因、シグナル伝達系の知見を組み合わせて治療実験を行なうことにより、根本的ながん治療の開発に繋がると考えている。
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