2011 Fiscal Year Annual Research Report
日本の医療史における社会の転換と医療技術の連続性の研究
Project/Area Number |
21590579
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Research Institution | Juntendo University |
Principal Investigator |
渡部 幹夫 順天堂大学, 公私立大学の部局等, 教授 (00138281)
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Keywords | 医療・福祉 / 衛生 / 医学史 / 思想史 / 技術史 / 国際交流史 / 解剖学 / 民族学 |
Research Abstract |
研究成果報告書(中間報告)『 研究論文集 日本の医療史における社会の転換と医療技術の連続性の研究』を平成24年3月に発行した。研究内容としては結核史、ワクチン史、種痘史を中心に江戸期の医療版本や現代の労働保健の問題まで幅広いものを掲載したものである。24年4月以降に報告書を交流ある研究者・研究機関へ配布した。その結果として財団法人結核予防会の『結核予防会TBアーカイウ゛事業推進・運営委員会』での参考資料とできた。また、厚生科学研究『集団予防接種等によるB型肝炎感染拡大の検証及び再発防止に関する研究班会議』への委員としての参加が出来た。時間的広がりを視野に入れた研究テーマが、現代の社会において意味を持つ研究実績が上がっている。 今年度の研究実績は日本医史学会総会にて『昭和22年刊「公衆衛生叢書全7輯」について』、日本民族衛生学会総会にて『大正11年制定の健康保険法とその施行の遅延について』、日本医史学会11月例会にて『大正11年制定、昭和2年施行の健康保険法についての1考察-関東大震災と医療体制史を含めて』、医療看護研究会にて『解体新書に先立つ西洋解剖書の和翻訳について』を発表した。蘭学勃興以前の日本の医療思想、大正末期から昭和初期の医療保障制度黎明期の問題、戦後占領下の公衆衛生行政の背景などの一部を明らかに出来た。 23年度の繰り越し費用にて、24年7月にオランダのライデンにてライデン大学図書館およびシーボルトハウスにて調査活動を行いシーボルトが日本より持ち帰った日本の医学書を中心に調査した。調査結果は25年5月日本医史学会総会において『Leiden 大学に所蔵されるレメリン解剖書2書と「和蘭全躯内外分合図」について』として発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
『日本の医療史における社会の転換と医療技術の連続性の研究』において社会の転換としては明治維新と第二次世界大戦終戦を念頭に置き、医療技術の連続性を明らかにしたいと考えて研究を行ってきた。技術の連続性は表層的には時代の転換の中で絶たたれているようにも見られる。このことは政治制度、社会の仕組みが大きく転換した日本においては生活者の側にある医療においても当然のことと考えられる。しかし医療者として実際の医療現場に携わる職能者の医療思想は、それほど大きく変わっていないのではないかということが今までの研究から考えられる。 第二次世界大戦終了後の日本の医療史を米国の議会図書館とメリーランド大学プランゲ文庫を中心に研究、江戸末期の洋学(蘭学)導入期の日本医療の評価をオランダ・ライデン大学、シーボルトハウスを中心に行ったが、医療技術の連続性として明らかとなったものは多くない。しかし医療者の思想体系は従来の日本の知識人の原点である、東洋中国由来の漢字文化の中にあったように考えられる。 政治的な転換は明治期における西洋医学への転換としての独逸医学導入、第二次世界大戦終了後の米国医学への傾斜が技術としての日本医学の変化をもたらした。そのもとになった蘭学導入期に、実際の医療現場を支えていた儒学的な哲学による江戸時代の医療者がシーボルトとの交流により得たものとシーボルトが日本より得たものの意味は歴史学的な評価を続けなければならない課題である。本研究は技術史の研究から思想史の研究に移りつつあるが、このことは本研究主題の命題からすると当然の帰結とも考えられる。 4年間の研究を終えての研究の達成度は80%と自己評価している。
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Strategy for Future Research Activity |
『日本の医療史における社会の転換と医療技術の連続性の研究』の研究目的は歴史的研究からこれからの日本の医療技術のあり方を、それを支える思想を含めて考えることにある。 WHOは低コストにより、世界最長の平均寿命を達成した日本の医療の高パーフォーマンスを高く評価している。しかし国民の医療に対する満足度は低く、医療者への評価も高いとは言い難い。OECDの保健医療の指標でも日本の位置が高いものは少ない。 この状況は何によるものなのだろうか。一つは現代医療につながる日本の医療者の医療思想の史的変遷が一つの原因となっているように考える。医療技術とそれをになう医療者の系譜は社会の大きな変革の中で継承されてきた。本研究でもそれは明らかになった。しかしそれを支える医療思想は大きく変わってきた。江戸期、明治以降、第二次世界大戦後のそれぞれの医療思想は全く異なる哲学を基盤としているように思われる。 日本の医療者が共通した哲学倫理基盤を持っていたとしてもその医療技術者としてのありようは、政治による社会の変化と経済的な枠組みの中で大きく変化してきた。政治的な変革期における医療者の存在の仕方だけではなく、平時における医療者には次の時代の規範を作る社会教育者としての役割があったように思われる。本研究の最終年度の研究としては、職能集団としての医療者について調べたい。日本の医療の担い手が江戸末期の儒医、漢方医から蘭方医・洋医にかわり、明治の独逸医学の導入・独逸留学者による独逸医学を手本とした国家の医療政策を整備した経緯、その後の日本の民族主義的医学への変化の過程を経て、米国医学へ傾斜してゆく日本の医療の技術史と思想史としてまとめて、現代から将来を展望する研究としたい。
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