Research Abstract |
研究の過程で,慢性胃炎粘膜と胃腫瘍双方において,粘膜上皮内に沈着した物質により,上皮下の血管が視覚化されていない現象が一定の頻度で存在していることを発見し,本物質を白色不透明物質white opaque substance (WOS)と命名し,学術集会や論文ですでに報告した. 本物質の存在のために血管が視覚化されていない場合があり,上皮下の血管の解析より前に,そしてオリジナリティーの点から,本物質の臨床的意義と本物質の本体の解明を優先すべきと考え,集中的に研究を行い以下の結果が明らかになった. 本物質の形態学的特徴を解析したところ,血管が視覚化されていない場合は,癌と非癌の鑑別診断に有用であることが判明した. 粘膜を不透明にする物質は,上皮内で光を強散乱させている物質であると仮定し,病理組織学的に本物質の正体について,様々な方向からアプローチした. 細胞の核や細胞質の粘液との相関について調べたところ,関係がないことが判明した.しかしながら,十二指腸において,吸収された脂肪滴が上皮内に集積し停滞すると,白色に観察されるという報告があり,胃の背景粘膜や腫瘍から採取した生検標本の凍結切片を作成し,脂肪染色を行ったところ,非腫瘍や腫瘍のWOSは,吸収された微小な脂肪滴が沈着している現象である可能性が判明した. 胃の腫瘍が脂肪の吸収能を獲得したという報告はこれまでになく,もし脂肪を負荷すれば,胃腫瘍の内視鏡診断の診断能を上げうる可能性や試薬開発の可能性があり,米国へ仮特許を申請した.その後,海外の学術集会で報告した.この知見は,本来は粘液や胃酸を分泌する臓器である胃が,腫瘍になって脂肪の吸収能を獲得したという従来にない新しい知見の可能性があり,血管を不可視化すること,生物学的に腫瘍の発生や分化を研究する上で重要な知見となりうること,将来の癌を診断する新しい試薬の開発につながる可能性があると考えられた.
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