Research Abstract |
Influenza A/Aichi/2/68,H3N2亜型のみならず,H1N1型(PR8)、H2N2型(Okuda)インフルエンザウイルスの増殖・精製を行い,ヒト肺腺癌細胞株A549細胞と初代培養されたヒト正常気管支上皮細胞NHBE細胞を用いて,M.O.I.10以上でin vitroの感染実験系を構築した.これにより流行株の全ての亜型ウイルスにおいて,正常呼吸上皮細胞おける宿主免疫応答の解析が可能となった.インフルエンザウイルスを感染させた8時間後,細胞をインターフェロン(IFN)-α 1,000U/mlで刺激すると,IFNシグナル伝達経路の最下流に位置するSTAT-1の701チロシン残基のリン酸化は,驚くべき事に消失していた.つまりインフルエンザウイルス感染細胞ではIFN-αのシグナル伝達は遮断されていた.IFN-γで刺激するとやはりSTAT-1のリン酸化は抑制されていたが,IFN-α程では無かった.この実験結果によって,IFNが持つ抗ウイルス作用はインフルエンザウイルスには無効であることが示唆された.即ち,インフルエンザウイルスはIFNが持つ抗ウイルス作用に拮抗すメカニズムを有することになる.このメカニズムを解明すれば,IFNが持つ抗ウイルス作用にインフルエンザウイルスを回帰させることも可能となり,新規治療法の開発に繋がるものと考えられた.次に,最初にIFN-γシグナル伝達経路構成分子である,(1)IFNGR1,(2)IFNGR2,(3)Jak1,(4)Jak2,(5)STAT-1の5つ分子についてmRNAと蛋白発現を検討した.PCRによるmRNA発現量の検討ではウイルス非感染細胞と感染細胞で顕著な差を見出せなかった.しかしウェスタン分析による蛋白発現量に関しIFNGR1とJak1がウイルス感染細胞では選択的に抑制されており、他の分子の発現量には有意差は認められなかった。次にこれらの分子の蛋白発現量の違いがウイルス感染細胞内で発現されるウイルス蛋白分子に起因するものか検討をおこなった.ウイルス感染細胞内ではHA,NA,M1,M2,NRPB1,PB2,PA,NS1,NS2の10個のウイルス蛋白が作られる.この中でどのウイルス蛋白がIFNシグナル伝達を遮断する原因分子であるか検討した.最初,IFN antagonistとして知られるNS1蛋白がIFN刺激によるStat1チロシンリン酸化を抑制する原因分子と想定し,NS1蛋白発現プラスミド(pCAGGS-NS1)をA549細胞に導入を試みたが効率が悪く,ヒト胎児腎細胞HEK293細胞に導入し,NS1蛋白を十分量発現させ,その後IFNで刺激しStat1チロシンリン酸化を検討した.その結果,NS1蛋白はStat1チロシンリン酸化を抑制しなかった.即ち,NS1蛋白はIFNシグナル伝達遮断のメカニズムは関与しないことが証明された.
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