2009 Fiscal Year Annual Research Report
大腸癌におけるPI3K経路の解析と新規分子標的治療薬の検討
Project/Area Number |
21591721
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
須並 英二 The University of Tokyo, 医学部附属病院, 講師 (70345205)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
北山 丈二 東京大学, 医学部附属病院, 准教授 (20251308)
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Keywords | 癌 / シグナル伝達 / PI3K-Akt経路 / MAPキナーゼ経路 |
Research Abstract |
8種の大腸癌細胞株(LoVo,CaRI,SW480,DLD-1,HT-29,CaCo-2,colo205,WiDr)を用いて、PI3K-Akt経路の阻害剤LY 294002処理を種々の用量(最終濃度0-10μM)にて行い、細胞株の増殖への影響はMTSアッセイで解析した。LoVoとCaR1では低濃度のLY 294002でも増殖抑制が認められた。これは、過去に報告したmTOR阻害剤であるラパマイシンでの有意な増殖抑制がこの2種で認められた結果に一致する所見である。その他の細胞株では高濃度のLY-294002の投与でようやく増殖の抑制がみられるか、ほとんど抑制がかからなかった。同様にMAPキナーぜ阻害剤であるPD 98059を40μMまでの最終濃度で上記8種の大腸癌細胞株を処理して、増殖への影響をMTSアッセイで解析した。SW480,colo205,WiDR,HT-29においては低濃度のLY-294002で著明な増殖抑制が認められたが、他の細胞株ではほとんど増殖の抑制がかからなかった。 LY-294002またはラパマイシンとPD 98059の2系統の阻害剤で、in vitroの増殖抑制がみられた大腸癌細胞株はなかった。Scartozziらの報告(Br J Cancer, 2007)では、大腸癌の臨床検体を免疫組織学的に検討し、MAPキナーゼ経路は活性化されていると思われる症例(リン酸化p44/p42染色陽性)、PI3K-Akt経路の活性化が見られる症例(リン酸化Akt染色陽性)はそれぞれ75%存在すると報告されている。両方の染色がともに陽性である比率については報告されていないが、少なくとも50%はともに陽性であったことを意味しており、大腸癌の発育進展に関して2つのシグナル伝達経路が相互排他的である可能性は低いと推定される。 実際にラパマイシン,PD 98059処理をした大腸癌細胞が、互いの経路に活性化などの影響を及ぼすかを、ウエスタンブロッティング法で検証した。まず上記の8種の大腸癌細胞株について、100nMのラパマイシンで24時間処理を行い、回収した細胞より蛋白を抽出し、抗リン酸化p44/p42抗体を用いて発現を調べた。上記8種の大腸癌細胞株で発現量に違いはあるものの、LY-294002処理と0.1%エタノール処理(対照)の間でリン酸化p44/p42の量に差がみられた細胞株はなかった。同じく大腸癌細胞株について、20μMのPD-98059で24時間処理を行い、回収した細胞より蛋白を抽出し、抗リン酸化Akt抗体を用いて発現を調べたが、対照(0.1%DMSO)に比べてリン酸化Aktの発現量に変化が生じた細胞株は認められなかった。 以上のin vitroの検討結果から、大腸癌の発育進展においては、MAPキナーゼ経路、PI3K-Akt経路の活性化は独立して生じる事象であることが推定される。
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