Research Abstract |
生体肝移植では、ドナーの安全を最優先することが最重要であり,当科では2008年以降は左葉グラフトが増加し,現在では左葉グラフトが主流である.これにより,グラフト重量が少なくなり,グラフト重量/レシピエント体重比(GRWR)が0.8%以下の過少グラフト症例が増加し、その対策が急務である.過少グラフト克服のために臨床的には脾臓摘出による門脈圧コントロールの重要性が指摘されているが,最近,脾臓には門脈圧コントロール以外に全身の炎症反応を制御する作用があることが示唆されている.昨年度は,ラットの過少グラフト肝移植モデルを用いて脾摘の有無による肝障害を比較し,脾摘の肝細胞保護効果について検討した結果,脾摘は肝細胞の増殖を抑制する炎症性サイトカインの産生を抑制するとともに,門脈圧コントロールによる肝類洞内皮障害予防作用により,過少グラフトの肝障害を軽減し良好な肝再生をもたらすことを明らかにした. そこで,本年度は臨床例で70例の成人間生体肝移植症例を対象に術前の脾臓容積とグラフト再潅流後の門脈圧との関係を,A群:過小グラフト(GRWR0.8未満)16例と,B群:非過小グラフト群(GRWR0.8以上)54例に分けて検討した.なお,脾摘は再潅流後の門脈圧が20mmHg以上で行った.20mmHg以上の高門脈はA群43.7%,B群20.4%にみられ,脾摘により両群とも門脈圧は20mmHg以下に低下した.その結果,過小グラフト症候群の発生頻度はA群12.5%,B群9.6%と差はなかった.再潅流後の門脈圧は,脾臓容積と有意の正の相関を示し,グラフト重量とは有意の負の相関を示した.門脈圧が20mmHg以上となるカットオフは脾臓容積500cm3,グラフト重量575gで,特にグラフト重量/脾容積比1.6以下が門脈圧上昇に寄与することが判明した. 過小グラフト症候群を克服するには門脈圧のコントロールが重要であるが,術前に脾臓容積とグラフト重量を把握し,その比を求めることにより,脾摘の効果が予測できることが判明した.
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