Research Abstract |
これまでに,B16メラノーマ細胞をマウスの尾静脈から肺へ転移させる転移実験系を用いて,宿主のSPARC遺伝子のノックアウト(KO)効果を調べたところ,ワイルドタイプに比べて優位に低下していることが示された.また,癌細胞自身のSPARC発現を低下させても同様の効果が見られた.そこで,口腔扁平上皮癌細胞NRS1細胞による転移実験系を確立すべく,バッククロスによりC3H系のSPARC KOマウス(F9)を作成した.肺転移には肺の環境が重要であるため,C57Bl/6,MF1,C3Hの各系統におけるSPARC KOによる遺伝子発現の変化を肺に注目してDNAマイクロアレイ法にて解析した.その結果,SPARC遺伝子をKOすることによって発現が3系統とも一致して増加(C57B1/6↑MF1↑C3H↑)したのは4遺伝子あったが,低下(C57Bl/6↓MF1↓C3H↓)したのは見られなかった.一方,各系統のみ発現が上昇し他の2系統では2倍以上の発現の増減の見られなかった遺伝子数(一)については,次の通りであった:C57B1/6↓MF1-C3H-(205遺伝子),C57Bl/6-MF1↓C3H-(674遺伝子),C57Bl/6-MF1-C3H↓(360遺伝子).これに対して,各系統のみ発現が低下し,他の2系統では2倍以上の発現の増減の見られなかった遺伝子数は,10遺伝子以下であった.これらのことから,SPARCは,遺伝子発現促進因子としての活性が強いことが見出され,その標的遺伝子はマウスの系統に強く依存していることが示された.これらのことからSPARC高発現癌細胞の肺転移には,癌細胞によって分泌されるSPARCにより肺における転移促進因子の発現促進効果の関与が考えられた.また,このマイクロアレイの結果は,遺伝子のKOによる表現系は,マウスの系統が密接に関係していることを示している.
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