Research Abstract |
労働安全衛生法で,事業者は労働者の化学物質曝露・健康障害の低減化に努ることを定めている。ホルムアルデヒド(HCHO)を製造工場で扱う場合,病院の病理室・解剖室で病理組織固定剤に使用する場合は,従事者の曝露低減対策がとられつつあるが,歯科診察室でもホルムアルデヒドを約15%含む根管消毒用合剤が使用されていることは広く知られていなく,曝露低減対策も現実化していない。 本研究の目的は,歯科診察室で診療時に日常的に使用される合剤に含まれるHCHO曝露を効率よく低減するために行った。本研究の独創性・特色は,曝露を受ける人が従事者だけでなく,外来通院する患者も含まれる点である。従事者だけの曝露は,従事者教育,局所排気装置設置により低減ができるが,不特定多数の患者が訪れる歯科診察室では,従事者(医師)の他,患者にも違和感・精神的身体的苦痛なく,曝露低減を図るべきである。 患者数の多い大学病院および患者数の少ない歯科クリニックの歯科診療室を複数実態調査したことにより,HCHOの空気中濃度分布・時間変動(診療時間内・診療後)を把握し,.いずれも空気中濃度が安全レベル範囲内であるものの,使用した合剤が蒸散し,診療室全体に速やかに拡散すること,診療室の建材から蒸散するHCHOの影響(シックハウス)も無視できないこと,すなわち,合剤を使用していない医師・患者の曝露を確認した。曝露低減には,口腔外バキュームによる排気が有効だった。 曝露調査法は,国内で定められている作業環境測定手法を用いるが,専門境測定士が診療室に出入りし,患者の直近で測定器具を操作するため,患者に精神的負担を強いることが明確だった。そこで,患者の負担軽減のために,歯科医師が簡単な測定器具操作をするだけで診療室内のHCHO濃度を調査できる測定手法を確率した。これにより,合剤を使用していない医師・患者の曝露も評価できた。
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