2011 Fiscal Year Annual Research Report
美術を通してアフリカはどう語られているか―ビエンナーレと美術館の力学の研究
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21601009
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Research Institution | National Museum of Ethnology |
Principal Investigator |
川口 幸也 国立民族学博物館, 民族文化研究部, 准教授 (30370141)
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Keywords | 美術 / アフリカ / 表象 / 権力関係 / ビエンナーレ / 美術館 |
Research Abstract |
まず国内での文献調査を通して、終戦後の日本で、仮面や神像を中心とするアフリカ美術が、他のオセアニアや東南アジアなどの美術とともにどのように紹介されてきたか、その変遷をたどった。とくに注目したのは、戦前の一時期、民族芸術の一大コレクションとして知られていた「岸本コレクション」である。これに関する成果は[珍奇人形から原始美術へ-非西洋圏の造形に映った戦後日本の自己像」として、『国立民族学博物館研究報告36-1』に発表した。 また、国外では第54回ヴェネツィア・ビエンナーレでアフリカ美術の調査を行った。中国、台湾、香港はもとより、シンガポール、タイ、さらにはサウディアラビア、アラブ首長国連邦などアジア、中近東からの参加国が勢いを増す中で、ガボン、南アフリカといったアフリカからの国別参加国には覇気が見られなかった。特に後者は、会期途中で展示を切り上げてしまらた。これはひとつには、中国を中心とするアジアと中近東の資源国が比較的に活況を維持しているという世界経済の反映と見ることができるのだろうが、一方では、美術のオリンピックであるビエンナーレという19世紀末のスタイルが、結局は先進国と持てる国のためのイベントでしかないという、一種の行き詰りにあることを示していると捉えることもできるのではないだろうか。ビエンナーレや美術館という制度そのもののあり方をもう一度問い直すれるべきである。その視点から『美術館という幻想』(キャロル・ダンカン著、水声社)を翻訳出版した。 最後に、北アフリカ、特にモロッコからの連続性を意識しながら、スペインの地中海沿岸でのアフリカ文化の語られかたを調査した。街のつくりや食文化などさまざまな面で、ここは明らかに北アフリカ、アラブ世界と連続しているのだが、しかしながらそのことは意図的に封殺されて、近代ヨーロッパの一員としてのスペインが強調される。それは美術においても同様である。この点については、今後さらに幅広い視点から考察していく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
資料の収集は予定通りに進んでいるし、またそれに基づいた経過報告を兼ねた成果の発表も順調に進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度は研究計画の最後の年である。まず5月に第10回ダカール・ビエンナーレを実地に調査する。10回目ということは、20年間行われてきたのである。2年に一回行われるビエンナーレを継続して開催するというのは乱じつは先進国でも難しい。アフリカのセネガルでこの持続する志を支えるものは何だろうか。この点に注目しながら関係者への聞き取りを軸に調査を行う。また、パリやロンドンなどヨーロッパの諸都市で関係資料を収集し、さらに必要な場合には、南米ブラジルなどのアフリカ系アーティストの調査も行う予定である。
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