2011 Fiscal Year Annual Research Report
幼児期の脳内ストレス処理回路の発達と成熟に内臓知覚過敏が及ぼす影響
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21610003
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
渡辺 諭史 東北大学, 大学院・医学系研究科, 非常勤講師 (40431506)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
金澤 素 東北大学, 大学院・医学系研究科, 講師 (70323003)
福土 審 東北大学, 大学院・医学系研究科, 教授 (80199249)
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Keywords | 内臓知覚過敏 / 機能性腹痛 / 情動制御 / ストレス / 養育態度 / 過敏性腸症候群 / 事象関連電位 / 聴覚誘発電位 |
Research Abstract |
平成23年度は、前年度までに検証してきた以下の仮説について、症例数を拡大して検証した。これにより、情動ストレス制御が未発達である幼児期における脳内ストレス処理回路の機能に内臓知覚過敏の有無が及ぼす影響について、性差などの複数の影響因子についても詳細に検討することが可能となった。 《仮説》7歳時点で内臓知覚過敏(IBS様症状)の既往歴を有する子どもは、これを有さない子どもに比べて、 (1)情動コンフリクト(Go/Nogo)刺激を呈示されたときに誘発される抑制・エラー関連電位の反応性が高い。 (2)聴覚刺激時に誘発される大脳誘発電位の反応性が高い。 対象は、東北コホート調査に登録された生後84か月の児童-母親ペアのうち神経生理学検査に参加した434組であった。対象児に国際10-20法を用いて脳波電極を装着し、75dBの聴覚刺激時の聴覚誘発電位とGo/Nogo課題中の事象関連電位を測定した。同時に母親からChildren Somatization Inventory(CSI)ならびにParental Bonding Instrument(PBI)についての評価を聴取した。CSIは子供の身体症状、PBIは両親養育態度を定量化するものである。CSI腹部症状関連項目合計得点の高い群をIBS群、低い群を対照群とし、群間比較を行うとともに、PBI得点との相関分析を行った。 平成22年度までに、(1)事象関連電位では、潜時200-400msecのN2電位が得られ、IBS群は対照群に比べてNogo刺激時のN2電位の振幅が有意に大きいことが示された。(2)聴覚誘発電位では、潜時0-10msecの明瞭なABR(I~V波)が得られ、IBS群は対照群に比べてV波の潜時が有意に短かいことが示された。さらに今年度の検討において、これら脳内ストレス処理過程における内臓知覚過敏の有無が及ぼす効果に、性差および両親の養育態度の差があることが示唆された。 これまでにわれわれのグループは、成人の過敏性腸症候群患者で内臓刺激に対する脳幹反応および前頭前野活性が増強している所見を得ている。このような脳賦活パターンの変化は7歳で既に生じており、その変化には性差があると考えられる。また、過敏性腸症候群の病態生理に両親の養育パターンの影響が認められたことから、発達早期からの過敏性腸症候群予防の方策が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画である幼児を対象とした脳波データと腹痛症状データの収集は平成23年度までに予定通りの症例数についてすべて完了した。 一方、成人を対象とした脳構造画像データの収集は、当初の計画時の申請額からの減額により、進んでいない。幼児を対象とした脳波データを用いて、研究の目的をおおむね達成することは可能である。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでにわれわれのグループは、成人の過敏性腸症候群患者で内臓刺激に対する脳幹反応および前頭前野活性が増強している所見を得ている。今回の研究課題において、このような脳賦活パターンの変化が、7歳で既に生じており、その変化には性差があることが明らかにされつつある。 また、過敏性腸症候群の病態生理に両親の養育パターンの影響が認められたことから、発達早期からの過敏性腸症候群予防の方策が示唆された。 次年度以降、幼児期の脳内ストレス処理回路と内臓知覚の相関関係について、発達早期のストレス脆弱性予防の臨床に応用可能な分析結果を得るよう研究を進展させる必要がある。
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