Research Abstract |
共生現象はサンゴ-褐虫藻など様々な生物間でみられ,その成立や維持には内因性物質が関わるとされるが,物質レベルでは未解明である.共生藻の生態に影響する宿主由来の因子(ホストファクター,HF)や,共生関係の成立や維持,崩壊に関わる共生藻由来の因子(ゲストファクター,GF)が解明できれば,物質レベルや遺伝子発現レベルで共生現象を評価することが可能になる.また社会的関心も高いサンゴ白化現象の改善や,宿主動物の色彩や形態の制御など,貴重な海洋資源の維持や向上につながる重要な知見が得られると期待される.このような背景から,淡水原生動物や海洋無脊椎動物など宿主動物と,共生微細藻類との間で働く生理活性物質を化学的に解明することを目指して研究を実施した.これまでに,海洋無脊椎動物ヒラムシに共生する渦鞭毛藻のSymbiodinium属より,長鎖ポリオール化合物シンビオジノライドを発見し,平面構造と部分的な立体化学を決定した.また薬理学実験により,本化合物はモルモット回腸標本に対して顕著な収縮を引き起こし(EC_<50>=270nM),さらにN型カルシウムチャネル特異的なアゴニストであることを解明した.また三重県産の海洋性無脊椎動物(刺胞動物)の一種であるウミトサカDendronephthya sp.は,その体液が目や皮膚に付着すると腫れることから、地元の漁師たちの間で"目つぶし"と呼ばれている.この炎症惹起成分の構造や機能は判っておらず,また真の生産者も不明であり,共生や食物連鎖などを介した特異な物質生産や代謝移動が予想される.今回,ウミトサカの水溶性画分をマウスに皮下投与すると,顕著な炎症惹起作用を示すことを見いだした.この活性を指標に各種クロマトグラフィーで分離し、極微量(~10ng)の活性成分(5ng/kgで炎症惹起活性)を単離した.各種NMRスペクトルなどの解析により,活性物質はカルボニル基を3つ含む低分子ペプチド誘導体であると推定した.
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