2009 Fiscal Year Annual Research Report
現代ヨーロッパ文学における痛みと共同性の総合的研究
Project/Area Number |
21652027
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
対馬 美千子 University of Tsukuba, 大学院・人文社会科学研究科, 准教授 (90312785)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
堀 真理子 青山学院大学, 経済学部, 教授 (50190228)
田尻 芳樹 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 准教授 (20251746)
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Keywords | 痛み |
Research Abstract |
1 21年度は、小説、演劇、思想セクションごとに、ヨーロッパ文学における痛みの表象と<共同性>問題について、サミュエル・ベケットの作品を軸に様々な角度から分析を行った。また、痛みの表象、<共同性>に関する文献や研究資料を収集し、整理した。さらに、研究の成果を論文集の形でまとめ、研究叢書(執筆言語は英語)として英語圏の出版社から出版するための論文執筆と編集作業の準備を行った。 2 セクションごとに見ると、対馬は、ベケット作品において表現されている言語経験のもたらす苦痛についてアガンベンの「インファンティア」の概念を通して考察した。ベケットがいかに、言語経験に関わる苦痛を通して、私たち人間とは、本質的に言語以前のものを私たちの生きる言語世界の「原限界」として自らの内にもつ存在であることを示そうとしたかを考察した。また、ベケットにおける<女性的なるもの>と痛みの関係について、ベケット作品にあらわれる「生まれたことがなかった」女の子の表象を中心に分析した。堀は、ベケットの舞台作品を演じるさいに俳優が経験する身体的苦痛とそれを達成するさいの精神的自由の問題を、日本の能の演者に求められる身体的鍛錬と精神統一と比較し、その両者の原点がそれぞれの作者が描いた、社会的周縁者という他者性と無縁ではない点に着目した。田尻は、ベケットの作品における苦痛の表象について、公刊予定の論文集のための論文執筆と編集作業の準備に専念した。まず、人生の本質は苦痛であるという人生観を強固に持っていたことを確認し、それが後の作品にどう表出されているかに関心を持った。具体的には1961年の戯曲『しあわせな日々』を取り上げ、エマニュエル・レヴィナスの『実存から実存者へ』を手がかりに、非人称の文学空間の恐怖、死の不可能性の苦痛からの脱出としてこの戯曲の日常生活の前景化を読解できるのではないか検討した。
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Research Products
(3 results)