2010 Fiscal Year Annual Research Report
20世紀初頭のロシアにおける「古聖像の発見」とその文化的意義について
Project/Area Number |
21652031
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
宇佐見 森吉 北海道大学, 大学院・メディア・コミュニケーション研究院, 教授 (20203507)
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Keywords | ロシア文化 / 古聖像 / イコン / ロシア正教 / 芸術 / 教会 / 美術館 / 文化財 |
Research Abstract |
本年度は、古聖像が近代絵画や新興の前衛芸術のモデルとして「芸術創造の対象」となっていく諸相を明らかにすることを目標として、以下の芸術家の創作活動に関する文献蒐集ならびに調査を行なった。その具体的内容は以下の通りである。 1.ロシア時代のカンディンスキーが19世紀末に行なった北方ロシア民族誌の調査旅行に関する最新の研究について検討した。とりわけ、イーゴリ・アローノブの論考は、この分野におけるヴァイスの先駆的研究に新たな知見を加えるものである。 2.ロシア時代のラリオーノブ、ゴンチャローワの創作活動について資料を収集したほか、ラリオーノフによる「聖像画展」の企画について引き続き調査を行なった。 3.マレーヴィチ、ペトロフ=ヴォトキン、リョーリヒ、レントゥーロフら前衛美術家たちの創作から、古聖像や古ルーシのモチーフを抽出し、古聖像が彼らの創作活動を通じて「芸術創造の対象」となっていく諸相について分析を加えた。 4.ロシア革命前後のロシア正教会関連資料、ソビエト政権による宗教政策、文化政策、美術館行政等に関連する資料について収集した。これらの文献の吟味は次年度の課題だが、調査の過程で本研究がソビエト文化研究へと接続していく可能性を確認出来たことは大きな収穫である。「教会閉鎖」から「美術館開設」へ、という大きな価値転換を経験したロシア社会は、古聖像を「文化財の対象」として美術館に収蔵し、美術史学という「学術の対象」とする一方で、レーニンの遺骸を安置する「霊廟」を開設し、ソビエト時代のイデオロギーと科学の勝利をたたえた。こうした新たな権威の創出の過程を今後さらに追っていかねばならないと考えている。
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