2011 Fiscal Year Annual Research Report
20世紀初頭のロシアにおける「古聖像の発見」とその文化的意義について
Project/Area Number |
21652031
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
宇佐見 森吉 北海道大学, 大学院・メディア・コミュニケーション研究院, 教授 (20203507)
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Keywords | ロシア文化 / 古聖像 / イコン / ロシア正教 / 芸術 / 教会 / 美術館 / 文化財 |
Research Abstract |
本年度は古聖像が革命後、美術館の所蔵の対象、文化財として保護の対象となる諸相を追った。この分野での研究は本国でも着手されて間がないため、入手資料は限られたが、年度末には調査結果の概略をまとめ、問題提起を行ない、関連する事象を年表「古聖像の発見とロシア文化」にまとめた。以下はその概要である。 1.聖像や聖遺物が美術館の所蔵の対象、文化財として保護の対象となる諸相は、ソビエト政権による宗教政策、文化政策と切り離せない。聖像蒐集家たちは収集品を美術館に寄贈し、公開を望んだが、政権が行なった教会財産の没収、教会の閉鎖、聖遺骸の開封は、好事家の蒐集とはまったく異なる原理に基づいて展開された。古聖像と近代聖像は美術史学の観点から仕わけし、開封した聖遺骸は科学的に記録し、反宗教宣伝に利用するという一大事業が展開された。聖像や聖遺骸が信仰の場を離れては存在しえないと主張するフロレンスキイの「生きた美術館」論は退けられた。 2.本研究課題の調査を通じて明らかになったのは以下の二点である。第一に、「古聖像の発見」は19世紀以来変容を遂げた近代ロシア文化のひとつの分岐点に位置づけられるということである。1913年のロマノフ王朝300年記念「ロシア古美術」展と、前衛美術家ラリオーノフによる「ロシア・イコン」展の開催はこの価値転換を象徴している。第二に、「古聖像の発見」はわずか数年後、もうひとつの分岐点に達したということである。ソビエト政権が依拠した戦闘的無神論は教会財産没収、教会閉鎖、聖職者弾圧を通じて反宗教宣伝に着手し、文化財の学術的な選定を行なった。こうしたソビエト政権の理知的な文化政策は、当初予想していた以上に広範囲に徹底して行われていた形跡がある。そうした事実の検証、政治的動機と方法を検討することが今後の課題である。
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