2011 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
21652034
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
大野 圭介 富山大学, 人文学部, 准教授 (30293278)
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Keywords | 中国文学 / エキゾチシズム / 異文化 / 辞賦 / 古代 / 楚辞 / 戦国期 / 先秦 |
Research Abstract |
本年度は昨年度に着手した研究をさらに推進し、次のような成果を得られた。 (1)地理書的内容を持つ伝漢代作の小説『海内十洲記』は、戦国期の空想的地理書『山海経』と同様に辺遠の神話的世界が描かれるが、その文体はむしろ漢代の辞賦と『漢武帝内伝』などの仙話的長編小説の間に位置する過渡的なものであることを解明し、論文に発表した(「研究発表」参照)。この過程で、『山海経』の時代には巫祝がもっていた空想的地理情報が、『海内十洲記』『漢武帝内伝』においては道士のものとなっており、巫祝と道士の役割交代が仙話的長編小説や六朝志怪の成立に大きく関係している可能性に気づくに至った。 (2)『楚辞』は一般に先秦期の中国文明の中心地とされた黄河流域(中原)とは異なる南方の文化に根ざしたものと理解されてきたが、『楚辞』作品自体で南方の風土や風物を自覚的に強調する描写は「橘頌」を除いてほとんど見られない。しかし『楚辞』諸作品では中原の帝王や名臣に盛んに言及しており、諸国が覇を競い合った戦国期において、自国の正統性や優位性は風土ではなく歴史観において主張されていたこと、さらに漢という統一王朝が成立してはじめて楚の風土が異国情緒をもって理解されたことを明らかにし、口頭及び論文で発表した(「研究発表」参照)。 (3)諸書に残る先秦期の「歌」の中には、『史記』に引用された伯夷の歌のように、中原の人物の歌でありながら『楚辞』懐沙と形式が近いものがあり、そのプロットも君主に容れられぬ忠臣が都を離れた末に世を去るという共通点が見られることを論文に発表した。この過程で、先秦期の歌謡の様式は地域差だけではなくそのプロットに応じて決まっている可能性に気づくに至った(「研究発表」参照)。 当初予定していたものとはいささか異なる方向になったとはいえ、エキゾチシズムの端緒としての漢代の文学のさらなる解明や、中国国内の異景を盛んに描いている六朝志怪の形成過程解明に向けて道筋がつけられたことで、挑戦的萌芽研究としての本研究の意義は十分に達成されたといえよう。
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Research Products
(5 results)