2009 Fiscal Year Annual Research Report
北米先住民の保留地保持を支える集合的記憶の検討:ノーザン・シャイアンの事例
Project/Area Number |
21652064
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Research Institution | Nanzan University |
Principal Investigator |
川浦 佐知子 Nanzan University, 人文学部, 准教授 (30329742)
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Keywords | 北米先住民 / 集合的記憶 / 歴史哲学 / 部族主権 / 部族史 |
Research Abstract |
本研究は北米先住民の保留地を部族主権の基盤とみなし、その歴史認識の実際をノーザン・シャイアンの事例を通して検討するものである。平成21年度は、1850年代条約締結期から1900年部族保留地設立に至る経緯を明らかにすることを主眼に、米国モンタナ州ノーザン・シャイアン保留地等での現地調査、コロラド州デンバー国立公文書館での史料調査を行った。本年度調査研究からは、1)部族史は1884年大統領命をもって部族保留地設立と見なす見解を示すが、実際には保留地境界を明示した1900年大統領命をもって初めて部族独自の保留地が確保されたこと、2)送還先オクラホマ・テリトリーからの脱出(1878年)、フォート・ロビンソンからの脱出(18979年)は、保留地設立を可能にした「祖先の犠牲」として現在、部族員に認識されているが、実際には1877年に投降し、斥候として働いた一団の貢献によってタンリバー域での居住が認められ、これが後の部族保留地設立に繋がったこと、3)地域住民の激しい部族排斥運動によって保留地廃止の危機に晒された1884年から1900年の間に、他部族との合併案を一貫して退けることで、部族はタンリバー域を「故郷」と見なす部族側の見解を内務省側に浸透させていったこと、4)この時期、パインリッジ保留地等、他地域に散在していた集団のタンリバー域への移動の希求が、議会承認を経て叶ったことで部族再編が成されたことが明らかとなった。本年度研究の意義・重要性は、部族保留地設立過程を先住民部族がアメリカ合衆国という国家の内に部族主権の基盤を構築した時期と積極的に解釈し、そうした部族保留地設立の過程が現在どのように部族員に認識されているのかという部族の歴史認識の動態を、部族の「集合的記憶」の変容を通して明らかにした点にある。
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