2011 Fiscal Year Annual Research Report
北米先住民の保留地保持を支える集合的記憶の検討:ノーザン・シャイアンの事例
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21652064
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Research Institution | Nanzan University |
Principal Investigator |
川浦 佐知子 南山大学, 人文学部, 教授 (30329742)
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Keywords | 北米先住民 / 集合的記憶 / 部族主義 / 土地保全 / 対インディアン政策 |
Research Abstract |
本研究の目的は、北米先住民の部族主権の基盤である保留地に関わる歴史認識を検討することで、部族共同体の近代国民国家への集約を前提とする史観を再考することにある。平成23年度は、1960年代~80年代のノーザン・シャイアン保留地での石炭採掘計画の詳細を把握し、部族政府とエネルギー企業、及び内務省インディアン局との交渉過程を精査した。 ノーザン・シャイアンは石炭開発を通しての経済開発を一旦は目指したものの、インディアン局が企業に有利な安値で採掘権をリースしていたことを把握するとリース契約の破棄を訴え、法廷での係争を経て最終的に契約破棄に成功した。保留地に本拠を構える環境保全NPOネイティブ・アクションのディレクター、部族歴史文化委員会委員長らへのインタビューからは、国家のエネルギー危機に端を発した保留地での石炭開発計画は部族を経済開発派と土地保全派に二分し、両者の間には激しい対立があったことが窺えた。部族内では地下資源の権利を巡っての係争もあったが、1976年最高裁で決着をみたホローブレスト・ケース判決により、居留地内地下資源の権利が部族政府に約束されたことで一応の決着をみている。 ホローブレスト判決において、土地割当法に依って部族メンバー個人に割り当てられた土地権利は表層地のみに当てはまり、割当地の地下資源には及ばないこと、居留地地下資源は連邦政府から部族共同体に信託されたものであるという法解釈がなされたことは、「個人・市民」に還元され得ない「部族共同体」という特有の単位が近代国家の内に再認識されたとみてよいだろう。部族の側から見るならば、保留地土地散逸防止プログラム(1959年)や部族土地買戻しプログラム(1962年)を介しての、部族政府による保留地保持を部族主権の要とする方針は、ホローブレスト判決により堅固なものになった。長期に亘る係争を通して、部族政府は部族専任法務コンサルタント、外部団体等の助力を得つつ、内務省インディアン局を介さずにエネルギー企業と交渉する能力を獲得した。1934年にIRA部族となり、1935年に部族憲法を制定した部族は、20世紀末において近代国家の内に自らの部族主権のかたちを打ち立てたといえよう。
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Research Products
(3 results)