2011 Fiscal Year Annual Research Report
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21652066
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Research Institution | Kashihara Archaeological Institute , Nara prefecture |
Principal Investigator |
橋本 裕行 奈良県立橿原考古学研究所, 事業計画課, 課長 (80270776)
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Keywords | 秋田県大湯温泉 / 伊勢堂岱遺跡 / 塩釜神社 / 藤森栄一 / 埴原牧 / 七栗の湯 / 次田温泉 / 華清池 |
Research Abstract |
一昨年度作成した開湯または発見の記録が古い温泉リストおよび『日本書紀』『風土記』等の文献から抜き書きした温泉関係の記述に基づいて、本年度もそれらに該当する温泉地およびその周辺の遺跡等の踏査を実施した。 踏査の結果、秋田県大湯温泉と大湯環状列石(縄文後期)、同県北秋田市所在の伊勢堂岱遺跡(縄文後期)と付近を流れる湯車川との間に関連性を見出すことができた。また、栃木県鬼怒川温泉については、現状では縄文遺跡との関連性が明確ではないが、踏査の結果、川岸に近い河岸段丘上や東の山裾の扇状地下に未周知の縄文時代遺跡が存在する可能性が極めて高いという印象をもった。また、温泉地からは、那須岳の秀麗な山容が望まれ、山岳信仰関連の遺跡が存在する可能性も考えられる。鬼怒川温泉の踏査とともに、栃木県矢板市所在の塩釜神社の踏査を実施した。矢板市の西側に塩谷郡塩谷町があり、古くは塩釜神社の西方にあった塩田村・高塩村・玉塩(玉田)村で塩水が採れ、それを用いて製塩が実施されたという。内陸部製塩を考察する上で重要な地域の一つであり、周辺に「塩」を冠する地名が多い点にも留意する必要がある。諏訪市博物館では、かつて藤森栄一が諏訪湖畔の温泉と縄文遺跡の関運性に触れた点を再確認した。古代御牧の一つである長野県松本市所在の埴原牧跡の踏査では、牧の北側に存在する浅間温泉・美ヶ原温泉や南側に存在する崖温泉からはやや距離が離れているという印象をもった。埴原牧推定地内には、東側の山塊を水源として西流する宮入川・大沢という二つの河川があり、これら河川の縁辺に鉱泉の湧水点が想定できないか、今後の課題である。さらに、広島市所在の国史跡「湯ノ山明神旧湯治場」を踏査し、江戸時代の湯屋の構造を把握した。その他、『枕草子』に詠われた「七栗の湯」の比定地の一つである三重県榊原温泉、『万葉集』巻第六に収められた太宰帥大伴旅人の歌にある「次田温泉」の候補地である福岡県脇田温泉・二日市温泉等の踏査を実施し、現地の現状を把握した。 なお、中国陜西省西安市臨潼区に所在する華清池の踏査の際に、中国における温泉の考古学的・文献学的研究を推進する陜西省文物局の駱希哲氏と意見交換をする機会を得た。中国古代における温泉利用を勘案すると、7世紀代の天皇による温泉行幸や聖徳太子が道後温泉に石碑を建てたという伝承などは、華清池(宮)の故事に基づくものである可能性も考えられ、日本文化の一つとも言える温泉文化の根源については、東アジア的視点で考察する必要が生じてきた。
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