2009 Fiscal Year Annual Research Report
国際法理論と環境条約交渉のインターフェイス-「学者外交官」の実践
Project/Area Number |
21653003
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
柴田 明穂 Kobe University, 大学院・国際協力研究科, 教授 (00273954)
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Keywords | 国際法 / 環境条約 / カルタヘナ議定書 / 賠償責任 |
Research Abstract |
本研究は、国際法理論と環境条約交渉のインターフェイスを分析することを通じて、形成途上にある条約制度がそれを基礎づけ枠づける(はずの)国際法の理論的支柱とどのように関連づけられて交渉されたのか(されなかったのか)を、動態的に解明することを目的とする。そのため、本年度は、主に国際法上の「賠償責任liability」概念が問題となっているカルタヘナ議定書の「責任と救済」制度の設立交渉を取り上げ、第1に、そこで中核的課題となっている国際法理論の意義について予備的検討を開始し、第2に、制度交渉過程において、当該制度を一般国際法から分離された特殊なものとして扱おうとする主張ないし実践と、そこにおける国際法の一般理論の役割について、交渉現場における政府代表の発言や関係者へのインタビューより情報を得て、調査分析した。 その結果、liability概念については、2005年の南極環境上の緊急事態から生じる責任附属書や、EUが2004年に採択した環境損害指令がliabilityに関する行政的アプローチと言われる新たな考え方を提示していることがわかった。また、「責任と救済」制度の設立交渉に実際に参加し、関係者にインタビュー調査をした結果、EUが既に国内法化されている上記行政的アプローチを普遍的条約においても実現しようとしていること、他方で、多くの途上国が未だに伝統的な民事賠償責任アプローチを嗜好して交渉にあたっていることが明らかとなった。すなわち、本件環境条約交渉では、条約制度が拠って立つべき一般国際法理論について原理的な対立があり、交渉過程では、その対立を如何に政治的に妥協できるかが問題となっており、その妥協模索の帰結が「特殊な制度」成立の契機となっている可能性があることが理解できた。
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Research Products
(1 results)