2010 Fiscal Year Annual Research Report
市場および経済システムの内生的レジーム・シフト――戦略操作と持続可能性の観点から
Project/Area Number |
21653015
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
佐々木 弾 東京大学, 社会科学研究所, 教授 (30345110)
|
Keywords | ミクロ経済学 / 所有と経営の分離 / 主権 / 社会契約 |
Research Abstract |
平成22年度計画は本課題の中葉に位置し、初(平成21)年度に分析対象とした市場ないし取引システムの,strategy proofnessという問題を、企業組織の内部構造と関連付ける作業に主眼が置かれた。なお本計画年度に於いては以下のような理論的構築を旨とし、それに基づく具体的成果の刊行・発表については後年を待つ。 先ず、企業の所有と経営の分離により、市場に於ける実際の競争状態に鑑みれば個別企業の利潤最大化と必ずしも整合的ならざる行動を選択させるような経営者報酬体系を組む事が可能となるため、もし市場がstrategy proofでなければ、そのような経営が裁定行動(arbitrage)となる。 加えて、現実経済に於ける企業の在庫投資行動から市場の戦略的供給関数とそれに起因するsupply functions equilibriumとをゲーム論的に逆算(equilibrium comparative staticsの逆写像として)し、旧来のCournot理論とBertrand理論との相克とその実証困難性という問題が止揚される。 最後に、情報を意図的に獲得しない事へのコミットメントが重要になる状況が存在し得る。即ち、一プレーヤーにとっての情報価値が負となる状況は、その情報の存否が他のプレーヤーに知れた場合に限るからである。同様の議論は、情報を獲得したとしてもそれを利用しない(つまりその情報に依拠して行動を調整しない)というコミットメントの場合にもほぼそのまま当てはまる。これにより、営利企業組織にしばしば見られる一見官僚的もしくは前例踏襲的な保守性が、市場環境など一定の条件下で実は利潤追求上有利となり得るという事実も示すことができる。
|