2011 Fiscal Year Annual Research Report
フィクションから言説と事項を抽出して構築するモデルに基づく情報社会論の試み
Project/Area Number |
21653042
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Research Institution | University of Nagasaki |
Principal Investigator |
森田 均 長崎県立大学, 国際情報学部, 教授 (30270151)
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Keywords | 情報社会論 / 情報メディア論 / ITS / 文学論 / 社会学 / コンテンツ・アーカイブ |
Research Abstract |
本年度は、当初平成22年度の実績を敷衍することから最終年度の方向性を求めることにした。推理・探偵小説、SF小説、ショートショートの3ジャンルに関して本研究に相応しい題材の選定を行った。また、それぞれの出版状況や現実社会との具体的な接点などを明らかにするための調査を行った。 1)推理・探偵小説:論理の展開によってストーリーが動くという点のみならず、フィクションを構成する個々の文章の論理的な関係がプロットを形成することになる。さらにトリックとして情報通信手段が使われることがあるが、技術的進展によってこれが陳腐化し現実とはかけ離れた過去の遺物となることがある。こうしたケースを典型としてフィクションから抽出した言説や事項から社会における情報化の進展ぶりを検討した。2)SF小説:特定の技術的発展がフィクションの主要な構成要素となる。情報通信インフラの整備が描かれる未来像に反映されるケースや、執筆時点では存在もしないのに今日の社会を先取りしたかのような描写がある小説などから事項を抽出することを検討した。推理・探偵小説が過去から現実社会を照射しているとすれば、SF小説は将来予測とともに未来から現実を見据える分析装置たり得ると考えられる。3)ショートショート:キャラクター(登場人物)ではなくアイディアによって物語が展開するフィクションの典型として、日常の瞬間を断片にした表現形式として検討対象とした。 上記を検討した結果、ジャンルから事項へと研究の軸が移行した。物語が社会的歴史的要因によって変容する事例を教科書・アニメ・絵本などへのメディア変換も含めて民話を題材とした研究を行った。(上記3)、2)関連)また、過去から未来へと貫く電気通信メディアとして民放ラジオ開局前後の時点に着目し、事実とフィクションを架橋する具体例として井上靖の小説及び毎日放送社史及びこれ等の周辺文献を収集して言説を分析する研究を行った。(上記1)、2)関連)また、フィクション及び事実の伝達に関して作者の存在を再検討する必要性に気付き受容理論や「作者の死」を研究の射程に取り入れた。(上記3)関連) さらに、情報社会形成のメタファーとして利用されていた概念が現実的には情報化の担い手となっていたITS分野との融合を次の研究指針として、本研究の取りまとめを行い挑戦的課題のさらなる発展を模索した。
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