Research Abstract |
本研究では,新たなデバイス材料として,安定アリルラジカルであるα,γ-ビスジフェニレン-β-フェニルアリルラジカル(1^*)に着目し,有機デバイスへの応用に必要な基礎物性の評価を行った. 文献を参考に合成した1^*を,ベンゼンから再結晶すると,1:1でベンゼンを包摂した,金属光沢のある緑色結晶(1^**C_6H_6)が得られた.ベンゼン溶液でのUV-vis吸収スペクトル測定では,489nmにSOMO-LUMO遷移に対応するピークを観測した.また,経時変化の観測を行ったところ,空気飽和下で2日間放置しても吸収スペクトルに変化がないことから,1^*は酸素に対して安定であることがわかった.一方,蛍光スペクトル測定では,1^*はほとんど蛍光を発しないことが分かった.アセトニトリル溶液でのサイクリックボルタンメトリーでは,1^*の可逆的酸化還元波が観測され,酸化還元電位はそれぞれE1/2^ox=+0.77V vs. SCE, E_1/2^red=-0.36Vであった.これらは一般的な閉殻種のそれに比べて非常に低く,電子授受能の高さが示唆された.次に,スピンコート法により1^*の薄膜を作成し,そのUV-vis吸収スペクトルを測定したところ,498nmにピークが観測された.また,電気伝導性の評価として,光電流(Photocurrent: PC)測定を行った結果,550nm付近で1^*の電気伝導性が観測された.蒸着より簡便な塗布法で電気伝導性をもつ低分子薄膜が作成されたことは注目される.今後は,1^*の塗布膜を用いたデバイス作成を行う予定である. 予期しないことに,1^*は蛍光を全く発せず,有機ELの発光子としての利用は困難であることが分かったが,有機ELの電子輸送層あるいは正孔輸送層として,有用であることが強く示唆された.
|