Research Abstract |
本研究では,新たなデバイス材料として,安定アリルラジカルであるα,γ-ビスジフェニレン-β-フェニルアリルラジカル(1^・),さらに共役系を拡張した安定ビラジカル(2^<・・>)に着目し,有機デバイスへの応用に必要な基礎物性の評価を行った. 文献を参考に合成した1^・は,サイクリックボルタンメトリーの結果から,酸化還元電位が非常に低く,有機電界効果トランジスタ(OFET)への応用が可能であることが示唆された.そこで,スピンコート法を用いて1^・を有機半導体層に用いたボトムゲートートップコンタクト型FET素子を作成し,そのキャリア移動特性を評価した.その結果,1^・を用いた素子はn型のFET特性を示し,このときの移動度は6.3×10^<-7>cm^2/Vsであった.この値は,一般的な有機半導体を用いたOFETに比べ,非常に低い値ではあったものの,1^・がデバイス材料に応用可能であることが確認された.また,この結果について,密度汎関数理論(DFT)計算を用いて考察を行ったところ,一般的なn型有機半導体はLUMOがキャリア移動に関与するが,1^・はLUMOではなく,ラジカル特有のSOMOが関与することが示唆され,n型OFET材料としてのラジカルの有用性が明らかになった. 一方,共役系を拡張した2^<・・>は三つの構造異性体をもち,さらに多重度も一重項と三重項の二つを取り得るため,移動度の向上だけでなく,異性体や多重度の変化による移動度の変化が期待され,大変興味深い.現在は,2^<・・>,そして,溶解性の向上を志向し,長鎖アルキル鎖を導入した3^<・・>の合成を行なっている. 今後は,ターゲットのビラジカルの合成,異性体ごとに単離し,各々の多重度と,ビラジカル2^<・・>,3^<・・>を用いたOFETの移動度について評価を行う予定である.
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