Research Abstract |
昨年度までの研究成果により,バタフライ形構造をとる四鉄上において,架橋配位したプロモアセチレンから臭化物イオンを銀塩で引き抜くことで,非平面形エチニルカチオンが発生することを明らかにした。本年度は,非平面形カルボカチオンの準安定化において,最も適切な塩基の検討を行った。ピリジンおよびピリダジンとの反応では,銀塩を用いることなく,求核置換反応が進行することが明らかとなったが,いずれも陽イオン炭素への配位能が強く,求電子試薬との反応性を示さず,非平面形カルボカチオンの合成等価体としては適切ではないことがわかった。ピラジンとの反応では,求核性が弱いため,銀塩を添加する必要があるが,非平面形カルボカチオンを準安定化できることがわかった。例えば,水とは速やかに反応して,エチノール部位の生成を伴い,メチンおよびカルボニルが架橋配位した四鉄クラスターが得られた。一方,メタノールとの反応では,メトキシアセチレン配位クラスターが生成し,その合成単離に成功した。以上のとおり,ピラジンを塩基として用いることで,通常のシュレンクテクニックで取扱える程度に安定化され,かつ求電子試薬に対して高い活性を示すという「準安定化」に成功した。また,生成したメトキシアセチレン部位は興味深いことに水に不安定で,すぐに炭素-酸素結合の開裂を伴い,メチンおよびカルボニルが架橋配位したクラスターへと変換された。^<18>Oで標識した水を用いることで,その反応機構を考察した。今後は,非平面形カルボカチオンの特性を基盤とするルイス酸触媒への応用が期待される。
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