Research Abstract |
キセノン(Xe)は18属元素の希ガスに分類され,一般には反応性に乏しいと認識されている.特に,それが金属や金属イオンと直接の強い結合を有する化合物はほとんど知られていない.我々は,Xeが銅イオン交換MFI型ゼオライト(CuMFIと略記)中に形成されたCu^+と特異的に相互作用するという不思議な現象を見いだした.本研究では,CuMFIなどの金属イオン交換ゼオライトをナノリアクションポットとして利用することによって,その反応容器中における交換イオンとキセノンとの化合物についてそれらの構造・電子状態などの特性を解明し,これまでにない全く新しいXeと金属または金属イオンのとの結合を通して,新しいXeの無機化学を開拓することを目的としている. 今回,ゼオライトのサブナノメーターサイズの空間内に銅イオンをイオン交換させた試料を用いることによって,室温でさえ,XeとCu^+との化合物が形成されるという不思議な現象を解析した.Cu^+-Xeの結合状態に関して,高エネルギー加速器研究機構のシンクロトロン放射光を利用したX線吸収微細構造解析により,直接の構造解析に世界で初めて成功した.Cu^+-Xe間の結合距離は0.25nmと求まった.Xeのファン・デル・ワールス半径やCu^+のイオン半径を考慮すると,0.25nmという結合距離は大変短く,Cu^+-Xe結合に化学結合が存在することを示している.また,吸着エネルギーとして得たCu^+-Xe間の結合エネルギーの値は60kJ/molとわかった.これらの結果は量子化学計算的手法によりよく再現できた.また,銀イオン交換MFI型ゼオライト(AgMFI)もXeと室温で相互作用することを見いだした.その際,ゼオライト中に形成された銀イオンクラスターがXeとの相互作用に重要な役割をしていることがわかった.ゼオライト中の銀イオンクラスターの状態についてX線吸収微細構造スペクトルを測定し,真空排気処理により銀イオン交換ゼオライト中に形成される銀イオンクラスターの構造解析を行った.その結果試料中にはAg_n^<m+>クラスター,特に,Ag_3^<m+>クラスターが多く形成されることが分かった.拡散反射(DRS)スペクトルの測定の結果,Ag_n^<m+>クラスターに帰属されるバンドがキセノンを吸着させることにより高エネルギー側にシフトすることもわかった.これらの結果を考慮することによって,ゼオライト中に形成されたAg_3^<m+>クラスターがキセノンと相互作用するものと推定した.さらに,量子化学計算法を用いて銀イオンクラスターの構造解析および電子状態解析を行い,キセノンと相互作用する銀イオンクラスターの状態解析を行った.まず,電子状態解析から銀イオンクラスターの紫外可視スペクトル(計算)を得た.さらに,キセノン吸着前後におけるスペクトル変化(計算)の挙動はDRSスペクトル(実験)から得られた結果とよく一致した.以上の結果Ag_3^<2+>クラスターが最も強くキセノンと相互作用すると結論した.今後,吸着エネルギーを実験的に求め,その値とAg_3^<2+>クラスターへのXeの吸着エネルギーの計算値がどの程度一致するかについて,モデルの妥当性も含めて検討する予定である.これらのデータは世界で初めて実験的に求まった値であり,ゼオライトなどのナノリアクションポットを特異反応場として利用したXe-金属イオン化合物の初めての実験研究である.これらの結果を計算化学的手法を用いることによって実証した.さらに,本研究結果を利用し,キセノンの分離・回収法としてのCuMFIやAgMFI利用について,実用面からのアプローチも行った.
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