Research Abstract |
本年は,ナノ磁区構造をもつ磁性薄膜への常磁性分子の吸着について検討を行った。ナノ磁区構造をもつ磁性薄膜として,まず,Co/Pt多層膜を3元スパッタリング装置で作製した。作製したCo/Pt膜を磁気力顕微鏡で観察したところ,磁区幅200~400nmの迷路磁区構造をもっていることが確認できた。Co/Pt膜は,1000emu/cc前後の飽和磁化を持つため,表面には非常に大きな磁界勾配が生じていることが分かる。この磁界勾配ももつ表面に吸着させる分子として,ヘミンを選んだ。ヘミンは,分子量652で,分子の中心にFeイオン1個を包含している。ヘミンの粉末を振動試料型磁力計で,測定したところ,常磁性を示すことが確認された。ヘミンを希釈したアンモニア水に溶解して,この溶液にCo/Pt膜を浸して,乾燥後に,原子間力顕微鏡で表面観察を行った。その結果,成膜直後のCo/Pt表面の凹凸が,0.3nm程度であるのに対して,ヘミン溶液に浸した後の表面には,1nm以上の凹凸があり,ヘミンが吸着しているものと考えられた。このヘミンの吸着が,磁力に因るものか,単に表面に付着したものかを判別するために,迷路磁区構造をもつ成膜状態のCo/Pt膜を電磁石中で磁界を加えて,磁化を飽和させた状態として,ヘミン溶液に浸して,表面を観察したところ,表面の凹凸の増加は,わずかであり,迷路磁区構造をもつCo/Ptの場合とは,有意の差が認められた。ヘミンが,磁界勾配の大きい磁壁に沿って付着するとすれば,磁区構造とよく似た表面形状が観察されるべきであるが,これに関しては,今のところ不確かであり,今後,Co/Pt膜の磁化の大きさと,表面の関係などを評価する必要がある。
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