2009 Fiscal Year Annual Research Report
ドーパミン欠乏症のモデルとしてのカイコ変異体「黄体色致死」に関する研究
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21658017
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
嶋田 透 The University of Tokyo, 大学院・農学生命科学研究科, 教授 (20202111)
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Keywords | 致死突然変異 / 神経伝達 / BH4 / 疾患モデル / 行動異常 / セピアプテリン還元酵素 / チロシン酸化酵素 |
Research Abstract |
カイコの突然変異体「黄体色致死」(lemon lethal)は、2齢幼虫が濃黄色を呈し、まったく摂食できずに致死する。この突然変異の原因がセピアプテリン還元酵素(Sepiapterin reductase ; SPR)の遺伝子の構造に異常が起きた結果、SPRの酵素活性が顕著に低下するためであることが明らかになっている。SPRは、チロシン水酸化酵素などの補酵素として使われるテトラヒドロビオプテリン(BH4)を合成する酵素であり、SPRの欠損はヒトや哺乳類でも発達障害や運動障害などの重篤な症状を引き起こす。本研究では、黄体色致死変異体にBH4を経口的に投与して治療を試みた。その結果、2齢幼虫が餌を食えるようになって成長をし、個体によっては成虫にまで達した。また、同様にドーパミンを経口投与したところ、やはり2齢幼虫で摂食ができるようになって成長した。しかし、セロトニンはあまり効果が見られなかった。これらの結果から、黄体色致死の原因は、BH4の不足によってチロシン水酸化酵素(tyrosine hydroxylase)の活性が低下し、ドーパミンの生産量が低くなったために、摂食行動に必要な神経活動ができないことであると考察した。ドーパミンの欠乏によって生じるヒトの病気に、パーキンソン病がある。パーキンソン病の遺伝要因の一つはSPRと強く連鎖している。本研究の結果は、カイコの黄体色致死変異体は、ヒトのパーキンソン病あるいは他の関連神経疾患のモデルとして使える可能性を示唆している。
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