Research Abstract |
昆虫の長距離移動のメカニズムやその飛来源の推定は,これまでにも飛来個体の様々な形態や形質の変化,あるいは生理学的特徴を比較する方法で行われてきたが,現在までにそれを実証する有効なツールは見つかっておらず,国外からのこれら昆虫の飛来経路を推定することは未だ難しい.本研究で対象としたコガタアカイエカは水生昆虫であることから,地域河川の水質あるいは土壌成分の影響を幼虫世代に多いに受け,さらに,成虫期のかなり後半まで続くことを想定し,微量元素分析からその飛来源を推定することを計画した.放射化分析ならびに放射光照射の長距離移動性昆虫の発生源の推定への応用は初めての試みであり,学術的に大きな特徴である. これまでに,土壌および蚊(合計59検体)を照射試料として機器中性子放射化分析および安定同位体比の解析に供し,それらに特徴的な微量元素を代表的な24元素から抽出した.この結果から,コガタアカイェカとその生息地の土壌との両方に共通する元素種をある程度絞り込むことができたが,蚊と環境要因との間で明確な相関関係が得られた地域は少なく,期間中に結論には至らなかった.一方で大型放射光施設(SPring-8)において放射光解析を新たな試みとして取り入れ,放射化分析で測定不能であった元素類の再評価,および成虫各部位における元素マッピング等の予備的な実験をほぼ計画通りに実施した(課題番号2011A1089,利用課題実験報告書).乾燥した蚊の各部位にX線を照射し,Ca,Mn,Fe,Cu,Zn,Crに対応するチャンネルのスペクトルを記録しマッピングを行った結果,部位や個体間で変動が見られた元素が存在する一方で,採集地による明確な傾向が見られない元素があることも明らかになった.コガタアカイエカの体内ではある種の元素が偏在していることが確かめられたが,その生物学的な意味については今後の検討課題である.
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