2011 Fiscal Year Annual Research Report
イソチオシアネートによる植物体内レドックス調節機構の解明
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21658025
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
原 正和 静岡大学, 農学部, 教授 (10293614)
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Keywords | イソチオシアネート / 植物 / レドックス / 高温耐性 |
Research Abstract |
イソチオシアネート(ITC)は、主にアブラナ科植物が発生する抗菌及び動物忌避物質である。したがって、ITCは、それを発生する植物にとって、生体防御物質であるというのが定説である。しかし、多くの植物は、抗菌及び動物忌避活性を発揮するのに十分な量のITCを生成できない。また、実験植物シロイヌナズナの変異株を使った研究によれば、遺伝的にITCをほとんど発生できない植物もまた、病原菌に対して耐性を有する。つまり、ITCイコール生体防御物質という既成概念は、再検討が必要といえる。しかし、これまで、誰も、この"再検討"に着手する研究者はいなかった。 最近、ITCは、ヒトの発がんを抑制する食物因子であることが分かってきた。疫学及び分子医学の研究によれば、ITCは、ヒトの体内で酸化還元(レドックス)バランスを調節し、がん原性物質を解毒代謝するという。そこで、私は、ITCは植物にとって自身の健康を守る物質なのではないかと着想した。本研究の目的は、この突拍子もない着想の証明にある。 幸運なことに、私は、本研究期間中に、その答えの一つを得ることに成功した。ITCは、植物の耐熱性を高める重要な物質だったのである。ITCを適量与えた植物は、その種類に関わらず、55℃、1時間という過酷な高温環境にさらしてもなお、よく成長した。しかも、キャベツやワサビに含まれるITCのほか、農薬として汎用されるITCに、高い活性を見出した。ITCは、レドックスバランスを調整して活性酸素の発生を誘発し、解毒酵素のGSTや熱耐性を高めるヒートショックタンパク質の遺伝子発現を高めた。おそらく、ITCを与えられた植物は、ITCに対して応答し、抵抗性が増強、結果として高温に強くなったと思われる。ITCの多くは、私たちの生活の中で広く使われ、食経験も長い。将来、安全なITCを使い、温暖化による高温に苦しむ農業の一助となる応用が期待される。
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Research Products
(6 results)