Research Abstract |
本年度は,8月に中国およびスバルバードの氷河の調査を行った.中国の氷河調査は,ウルムチNo.1氷河でおこない,昨年に引き続き今回は4回目である.従来通り標高別に6カ所で,微生物群集,クロロフィル,総汚れ量,有機物量,溶存成分,炭素窒素安定同位体比,遺伝子分析用の各サンプルを採取するルーチンワークをおこなった.今年度は,例年になく融解が進んでおり,雪線が今までの中で最も高い位置にあった.スバルバードの氷河は,今年度より開始した英国Aberystwyth大学との共同研究で行った.この氷河は英国の研究者によって氷河の化学的データが測定されており,今回この科研費の枠組みでの微生物に関する調査を行った.スバルバードのロングヤビン氷河およびフォクスフォンナ氷河の二カ所で調査を行い,微生物群集,クロロフィル,総汚れ量,有機物量,溶存成分,炭素窒素安定同位体比,遺伝子分析用の各サンプルを採取した.これらのサンプルの分析データは,氷河生態系の地理的な分布の比較に用いる予定である. 今年度さらに,今年度および昨年度までに得られた雪氷サンプルの生物化学的分析をすすめた.2010年度調査を行ったアラスカの氷河の分析の結果,氷河の末端部や中流部で10年前の結果と比べて微生物群集に変化がみられた.これは,氷河変動の影響が微生物群集に現れている可能性がある.さらに,炭素窒素安定同位体比や鉱物成分,汚れ量にも変化がみられた.これらの結果から,氷河上の生物化学的条件が過去10年で大きく変化していることが明らかになった.今後さらに他の氷河の分析を進めるとともに,成果を発信していく予定である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の目的である過去に調査を行った氷河の再調査を,アラスカ,ヒマラヤ,中国で行うことができた.さらにこれらの調査で得られたサンプルの生物化学的分析も,ほぼ予定通り進んでいる.これらの分析結果から,実際に過去10年で生物化学的条件,微生物群集構造が変化している事実を明らかにすることができた.
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Strategy for Future Research Activity |
次年度が最終年度なので,今年度までに得られたサンプルの生物化学分析をまず完了させる.特に氷河上の融解水の化学成分やpHの変化,微生物のバイオマスおよび生物群集構造の変化,微生物群集の高度分布の変化に注目する.さらに,各地域の物理的な変化,氷河末端変動や気象条件などの記録をあわせ,現在の氷河の変化に対応し氷河生態系にどのような変化が起きているのかを明らかにし,今後さらに温暖化がすすみ氷河の後退した場合に起こりうる生態系の変化を予想する.分析結果の過去のデータとの比較から,各地域の氷河ごとの変化をそれぞれ明らかにする.遺伝子分析結果などは,今後の変化のモニタリングに役に立つデータを整理する.
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